agreeable 第59号(令和3年7月号)
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吉村先生シロアリを取り出す去る5月18日、吉村剛先生が逝去されました。ちょうど吉村先生と共同研究を始めようと準備をしていた時だったので、1週間前には電話で打ち合わせをし、メールも頻繁に送っておりました。この2年ほどはコロナもあってお会いすることがなかったのですが、電話越しに聞こえたいつもの声とは裏腹に、近頃は体調を崩されていたようで、後に近影を拝見しあまりの変わり様にびっくりしました。吉村先生とは環太平洋シロアリ会議や吹上浜での作業、生存研での会議など、いろいろな場面でご一緒させて頂き、いつもおおらかで笑顔を絶やさず、研究と教育に情熱を傾けられていたことがとても印象に残っています。吉村先生のご生前のご厚情に深く感謝するとともに、安らかにご永眠されますようお祈り申し上げます。私のはじめての研究は、山に落ちている枯れ木にはシロアリがどのくらいいるのか、というものでした。シロアリは枯れ木を食べてその大半を二酸化炭素として放出するのですが、ずいぶん前から、シロアリ由来の二酸化炭素が地球温暖化の一因になっているのではないか、という話がありました。しかし、そもそも地球上にシロアリがどのくらいいるのかということもよくわかっていなかったので、実際にはシロアリ由来の二酸化炭素量を見積もることもままならなかったわけです。森林やサバンナでは、シロアリはおおまかに言えば、土の中か、巣の中か、枯れ木の中にいるのですが、枯れ木にいるシロアリにはほとんど手がつけられていませんでした。その理由は、あまりにも手間がかかるということだろうと思われます。そこで、若かった私は、「どげんかせんといかん」となったのでした。タイの熱帯林に行き、まずメジャーとビニールひもを使って100mの線を引っぱりました。そして10m毎に、線を中心として2m×2mの範囲を決め、その範囲内にある枯れ葉から倒木までのすべての枯れた植物を運び出してきました。このくらいの量を調べればおおよその見積ができるだろうということです。運び出した枯れ木などの総重量は、およそ100kgでした。これをすべて細かく砕いてシロアリを取り出し、数を数え、重さを量り、種類を調べました。計5万頭、重さにして140g、11種が見つかりました。平均すると、1㎡あたり約1200頭となり、土の中のシロアリ(約5400頭)と巣の中のシロアリ(約1000頭)に引けを取らないくらいのシロアリがいることがわかったのです。この研究でいちばん大変だったのが、木材からシロアリを取り出す作業でした。その後もいろんな研究で、木材や巣を取ってきてはシロアリを取り出し、数えたり測ったりということを何度となく繰り返し、取り出し方を模索してきました(写真1)。話を戻すと、巣を持ち帰るまでが前回でした。さて、どうやってシロアリを取り出すか、ということですが、シロアリがどれくらいいるかを知りたいので、ここでは出来るだけ多くのシロアリを取り出すことを目指します。はじめてシロアリを取り出すことになった時、苦戦を強いられるのは覚悟の上でしたが、それでも何か効率的な方法はないかと古い資料を調べました。すると、サバンナのシロアリ塚での例が見つかり、そこでは塚を粉々に破壊して水に沈め、浮いてきたシロアリを集めた、といったことが書いてありました。これだ!ということで、早速試してみました。水の表面でもがくシロアリをすくいとるようなイメージで、ザルを片手にわくわくしていたのですが…いろんなものは浮いてくるわ、シロアリはグチャグチャになるわで、到底使える方法ではありませんでした。効率ばかりを求めた自らを反省し、木材や巣から1頭ずつ直接ピンセットで取り出すこともやってみました。終わりの見えない苦行であることはおいておいたとしても、表面がごつごつして隙間だらけの木材や巣からシロアリをピンポイントに摘むのは至難の業でした。ここでようやく、何か平らでシロアリを捕まえやすいところにいったん出すのが良いのではないかと考えるに至りました。プラスチックのバットやトレーが手頃でよいのですが、シロアリだから黒いものの方がいいというわけではなく、黒っぽい土や木片などもあって黒いバットだとかえって見にくいです。使い勝手が良いのは、25cm×ックバットでした。早速、木材や巣のシロアリが出入りしている穴を下にして反対側を鉈の背でたたいてシロアリをバットに落とそうとしたのですが、なか第2回agreeable No.59 July 2021/7写真135cm×5cm程度の白いプラスチ〜シロアリはいったいどのくらいいるのか(後編)〜長崎大学山田明徳     2おとなのシロアリ自由研究

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