はじめに「長寿命化=費用削減」ではない家屋の資産価値の維持・向上や長寿命化のためには、維持管理の計画と実施が不可欠であることは明白でしょう。例えばマンションでは、中長期保全計画(以後「保全計画」)を策定するだけでなく、実施のために修繕積立金を積み上げることが一般的です。しかし同様の取組みを実施しているかと木造家屋の所有者に問われれば、「ほぼやっていない」と答える方が多いのではないでしょうか。現実的には、何か故障や不具合が発生し生活に支障をきたす状況にならないと、維持管理の重要性を認識しない方が大半だと考えられます。この状況を変えるべく、国も様々な対策 政庁に申請する必要があるため、いつ頃どに取り組んでいます。例えば長期優良住宅の認定の際には、保全計画を作成し所管行のような維持管理が必要か、その概算費用も含め整理されているはずです。一方で所有者が維持管理にお金をかけたくない(もしくはお金がない)と思えば、維持管理の実施が後回しになりがちで、長く住むほど当初の保全計画を忘れてしまうのも自然だと思われます。実際にマンションでも適切な維持管理が行われていない物件が多く、近年社会問題としても注目されています。同様に空き家問題も、不適切な維持管理が大きな要因であると考えられます。そこで本稿では、家屋の維持管理の費用対効果を整理し、その重要性を確認します。 「長寿命化すれば維持管理の費用削減につながる」と考えている人が多いと感じられますが、まずこの既成概念から変えない限り、維持管理の費用対効果を実感することはないでしょう。長寿命化のためには適宜修繕・改修を行う維持管理費が必要になるため、中長期的に見れば費用削減にならないと考えた方が良いと思われます。なお長寿命化により維持管理の費用削減が可能になるのは、長い期間「不具合を我慢している」場合しか基本的に考えられません。建替え後の生活を楽しみに我慢し続けるという状況も考えられないことはありませんが、必要以上の我慢を強いることになるので結果的に長寿命化ではなく短命化になる傾向が強くなります。一方で維持管理を適宜行えば、我慢する期間は大幅に短くなるので、結果的に無理なく長寿命化が実現する可能性が高くなります。この家屋の機能・性能と期間(時間)の関係は、図式化するとさらに簡明になります。前者をタイプA(30年毎に建替え大規模改修なし)、後者をタイプB(建替えなし15年毎で大規模改修)と仮定してその推移を比較すると、陳腐化により徐々に上昇する機能・要求の最低要求ラインを下回る(=我慢する必要がある)期間は、タイプAの方がタイプBよりも圧倒的に長くな前橋工科大学准教授 堤 洋樹10agreeable No.61 January 2022/1図 家屋の機能・性能と維持管理の関係家屋評価の手法と維持管理維持管理の費用対効果
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