参考文献と維持管理』、agreeabe No60、日本しろあり対策協会、PP10-11、202110家屋評価の手法機能・性能と価格のギャップの有効利用今後の維持管理に対する評価おわりにります。そのため適切な維持管理の実施は、その費用を建替えに回すよりも相対的に快適な生活を過ごす行為になると考えて良いでしょう。つまり長寿命化は維持管理の「目的」ではなく「結果」ですので、維持管理を行わない限り快適な生活も長寿命化も実現しないと考えるべきです。多額の費用をかけて適切な維持管理を行い家屋の機能・性能を持続させても、一般的に「20年程度で資産価値はなくなる」ことを前提としている日本の家屋市場では、維持管理の効果や費用が家屋価格に反映されない物件が多く見られるため、維持管理の費用対効果は小さいと思われがちです。しかしこのアンバランスな状況を逆手に取り、機能・性能と価格のギャップを有効活用することは可能です。特に既存家屋を購入する立場から見れば、機能・性能が高い家屋を比較的安価に取得・所有する可能性が高い状況だと考えられるでしょう。最近では所謂「ビンテージマンション」を安く購入し、内装を新築同様にリノベーションして販売することで、品質や立地の良い家屋を新築より安価に販売する中古販売事業が増えています。まさに家屋の機能・性能と価格のギャップを活用したビジネスモデルであり、市場が適切な家屋価格をつけられない今だからこそ可能な事業なのかもしれません。この状況はある意味、資産価値が適切に評価されずに所有者が損をしている環境にあるとも言えますが、少なくとも投資物件ではない持ち家に住んでいるのであれば快適な生活を送るために資産価値に関係なく維持管理を実施するべきですし、逆に適切な維持管理を行っていれば資産価値として評価される可能性を見出すことが出来るでしょう。なおどうしても維持管理をしたくない場合は、無理に長寿命化を目指す必要はなく、利用価値のない空き家にならないように「取り壊し費用」だけ確保できれば良いのではないでしょうか。家屋の維持管理に対する資産価値や費用 ..l. 対効果が低く評価される傾向は、住宅市場では新築が中心で中古市場は脇役でしかなかったため、維持管理を評価する必要がなかった状況が背景にあると考えられます。しかし家屋の新築市場の拡大が今後期待できないなか、中古市場の活性化のためにも維持管理の程度を適切に評価する仕組みが不可欠だと考えられます。その仕組みを検討する参考になるのが、自動車産業の車検です。特に自動車の中古市場の拡大は、車検のように統一的かつ定期的な維持管理の全数実施・確認する仕組みがあるため、中古自動車であっても機能・性能が明確であり、適切な値付けが可能になります。また事業者による検査手法の技術開発が、価格の透明性を実現し信頼確保に繋がっている状況も見逃せません。一方で住宅市場では、中古住宅の性能表示制度やインスペクションの普及が遅れていることもあり、機能・性能が明瞭な中古家屋が少なく、業界に対する購入者の信頼も低い状況です。この状況では、維持管理を含め家屋の資産価値を客観的に算出する環境整備は困難です。そのため将来的には家屋も自動車と同様に、統一的かつ定期的な維持管理の全数実施・確認を行う「家検」の法整備が必要になるのではないかと考えています。 「自分が生きている間だけで良いから、家屋の維持管理や長寿命化には興味はない」といった内容の発言をする方がいらっしゃいますが、日常的に快適な生活を送るための維持管理を実施していれば、結果的に優良な資産を将来世代に残すことに繋がります。残念ながら資産価値の面から見れば、日本の住宅市場では維持管理に対する適切な評価は行われていませんが、結果的に固定資産税が割安になっているとも考えられますので、必ずしも所有者のデメリットだけではありません。まずは日常的に家屋の状態に興味を持ち、不具合を感じた部分は迅速に手を入れることから始める維持管理をお勧めします。もちろん木造家屋の場合は特に、蟻害・腐朽対策が最重要であることは間違いありません。11agreeable No.61 January 2022/11) 堤洋樹、『家屋評価から見た木造家屋
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