を開始します。ふと、触覚だけを緩やかに動かしている兵蟻を見て考えました「こいつ、何を考えているのだろう?」と。吹上浜は松林であり、マツノザイセンチュウ予防のため1・5mの胸高直径が一定以上の太さ(20cm以上)があれば、1月~2月の厳冬期に樹幹に穿孔し薬液注入処理されるか、5月、6月の2回、マツノマダラカミキリ発生時にヘリコプターによる空中薬剤散布が実施されます。5月中旬に再観察のため、前日に吹上浜の国民宿舎に宿泊しました。観察当日朝にヘリコプターのエンジンとローター音が、ブゥーン・パタパタとして空中薬剤散布が始まりました。ヘリコプターの音が聞こえなくなるまで部屋にいて、10時過ぎに松林内の試験地へ入りました。いつもの通り透明プラスチック板を取り出し、蓋を開けた途端、「イエシロアリが居なくなった。」とおもわず叫びました。空中薬剤散布の影響が直ぐに出て、イエシロアリが容器内から一匹も居なくなったのです。撒かれた薬剤はスミパインMC(スミチオン80%)で、再び餌木にイエシロアリが戻って来るまで約1ヶ月が経過し、6月再度のヘリコプター散布によって7月の中旬までイエシロアリは戻って来ませんでした。餌木とは別にベイト剤も再検討する必要がありました。喫食試験(旧ベイト剤ー段ボールに薬剤含浸ーを蟻道に取り付け)は8ヶ所中1ヶ所のみ喫食しましたが7ヶ所喫食はありませんでした。「ベイト剤が喫食されなかった」とは「薬剤がシロアリに感知された」ことであり、濃度を落として喫食するかどうかを確認する必要がありました。そこで餌木についたイエシロアリを漏斗でペットボトルに落とし込み、新聞紙を細長く切って少し湿らせ家に持って帰りました。空気を入れるために千枚通しでいくつか穴を開け、自宅食卓の上に置いて一晩経ったら、穴が大きすぎたため一部の兵蟻と職蟻が食卓上と床上に逃げ出し、家内に大目玉を食らわされました。それ以降、0・3mmのドリル先を使って登りにくい位置に穴を開けるようにしました。旧ベイト剤は結局、食べられることはありませんでした。新ベイト剤を作成するには、新規の原体採用とベイト基材が必要となります。まず、試験を行う際に「何に含浸させるか?」「何をシロアリが食べてくれるか?」と考えました。手っ取り早くセルロースと言うことで、新聞紙を考えました。新聞紙は出張した九州一円の新聞紙を集めました。試験地で新聞紙のみで喫食試験を実施したところ、結果としてA新聞の喫食が良く、地方紙は少し劣りました。薄い薬剤溶液を新聞紙片面に吹き付け、我が家の屋上に新聞紙を広げて太陽光で乾燥させました。この年の夏は天気続きで良く乾き、薬剤別、濃度別、薬剤量別をいくつも作成して親しい白蟻業者にお願いして九州各地で実施しました。夏から晩秋にかけて実施した効果は時期に関係なく効果は抜群でした。濃度別、薬剤量別では、濃度を上げ過ぎると摂食が落ちるため、研究所での一頭当たりの致死量計算をもとに摂食がスムースな濃度を選びました。1年が経過して何とか「しろあり防除施工士」となりました。しかし、一人前の防除施工士には程遠く、シロアリはまだまだ理解出来ない動きをする動物としか思えません。2年目も業者に呼ばれた際は、ツナギを着て床下へ潜り込み、毎日、シロアリを眺める日々が続きました。 技術ノウハウの世界が伝統的に継続される業界である故に、技術的な質問をしてもはぐらかされ、どう言う意味かも分からずに理解出来ないことが多々ありました。2年目に入り、宮崎市瓜生野の清水しろあり・清水一雄社長に夕方にようやく会う事が出来ました。清水社長は、丁寧に、わたしの疑問に答えて頂き、気になっていた事がドンドン解決して行く快感が心地良かったです。その後、清水社長よりベイトシステム容器を使用するとの話があり、現地を見せてもらう事でOKを貰いました。当日、住宅の北側に3個の容器が埋まっているのを確認しました。「何故、片側3個だけですか?」と聞いたわたしに「通り道に埋めれば1個でも良い。」との返答があり、全くチンプンカンプンのわたしが首を何度も傾げて考え込んでも答えは出ませんでした。後で解りましたが、被害のあった住宅と周辺環境をよく見る事で土壌の中のシロアリの動きを読む事が大切であることが理解出来るようになりました。3年~5年は瞬く間に過ぎ、5年間のF社との合弁期間が終了しました。この間にいろいろの知見を吸収できた事が、定年後の樹木医試験と樹木医になってからの樹木等のシロアリ駆除/予防に役立つこととなりました。19agreeable No.61 January 2022/1
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