ノコバシロアリとローソク 2ル(Tschinkel)というタイワンシロアリとの奮闘後、しばらくは巣の中を調べることから離れていました。そんなある時、非常に興味深い情報を入手したのであります。タイでの調査中、アリの研究をしているアメリカ人とカタコトの英語で話をしていた時のこと、アリの巣をきれいに型取りした研究を知り合いがやったとかやってないとか、論文が出ているとか出ていないとかいう話が出てきたのです。英語がよく聞き取れず、はっきりとはわからなかったのですが、早速インターネットで調べてみること数分。見つかりました!!溶かしたアルミニウムや亜鉛などをアリの巣に流し込んで型取りする方法を詳細に紹介した、アメリカのチンケ研究者の論文です(QRコード参照)。この論文はオックスフォード大学出版というちゃんとした出版社から出版されているのに、著者が出版費用を払っているタイプの論文なので、誰でも無料で読むことができます。QRコードの先にある図を見て、シロアリでもやってみたいというモチベーションがふつふつと湧き上がってきたのです。タイではあちらこちらでノコバシロアリの仲間の巣を目にします。この巣はイエシロアリの巣材と同じカートン(木質の厚紙のようなもの)で作られていて、樹上や地表、木材の中などに作られます。その中でも特に地表に作られた巣はきれいな球状になっています。これまで何度となくノコバシロアリの巣を壊してきましたが、巣の中が複雑に入り組んだ緻密な構造になっていること以外、どんな部屋がどう配置され、どうつながっているかなど、まるで見当も付いていません。そんな状況で、チンケルの論文に出会ったのでありました。ただし、地中のアリ巣とは違いカートン製のノコバシロアリの巣にアルミニウムや亜鉛は使えません。巣はあっという間に灰になってしまうでしょう。タイワンシロアリで試したように石膏でやる方法も紹介されていましたが、一番気になったのはパラフィンワックス(ローソク)を使った方法でした。ローソクなら融点も低いだろうし、カートン製の巣の型取りには最適ではなかろうか、と思ったわけです。そして何より「ローソク汁」が完成しました(写も、巣の細かな空間が型取られた蝋細工は、さぞかし美しいだろう、と考えたのでありました。タイの田舎の雑貨店やスーパーには、停電した時用に大きなオレンジ色のローソクが安く売られています。ということで、まずはこのローソクを大量に購入してきました。続いて、ローソクを現場で溶かすのに必要な大鍋とコンロ、ガスボンベを調理場から拝借してきました。これらをすべて車に積み込み、いざ出発です。現場に着くなり、まずは状態と形状のよいノコバシロアリの巣を見つけました(写真1左)。こうして準備が整ったところで、さあ、ローソクを溶かします(写真1中)。煮物のアクを取るように、ローソクの芯と溶け残った塊を丁寧に取り出しながら火にかけること数十分、透明な琥珀色の真1右)。まずは試しに、地面に空いている小さな穴にローソク汁を流し込んでみます(写真2左)。いや~、これまでになくいい感じです(写真2中)。ほんの少ししか流していないのであれですが、固まった姿もなかなか美しいではありませんか(写真2右)。さて、本命のノコバシロアリの番で第4回agreeable No.61 January 2022/1写真1 なかなかきれいな形のノコバシロアリの巣(左)、大鍋に入って点火を待つ非常用ローソクの束(中)、琥珀色に透き通ったいかにも美しいローソク汁(右)〜シロアリの巣の中はどうなっているのか(後編)〜長崎大学山田明徳おとなのシロアリ自由研究
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