agreeable 第61号(令和4年1月号)
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はじめに雑木の入手シイタケ菌の接種子実体の成熟過程前回の自由研究では、大きく傘が開いたシイタケを使って、その胞子が飛散するところを観察しました。しかしこの方法で調達したシイタケはホダ木から切り離されていたため、時間の経過と共に活力を失い、胞子を作る能力を失っていくように感じられました。そこで今回は、時間に追われることなく、シイタケが胞子を出す様子をじっくりと観察することにチャレンジします。今回の作戦は、ホダ木に付いたシイタケから胞子が出てくるところを観察しようというものです。シイタケをホダ木から切り離さないので、シイタケの活力が長期間保たれ、胞子を長い期間出し続けるはずです。そこでまず木材(原木)を入手するところから始めます。シイタケは木材の色を淡くしながら木材を分解していく菌、すなわち白色腐朽菌です。白色腐朽菌は木材の中でも広葉樹材を好んで分解します。そこで胞子を長期間飛ばし続ける元気なシイタケ子実体を手に入れるために、原木となる広葉樹材を入手しましょう。クヌギ、コナラ、ミズナラなどが適していますが、シイタケ栽培を生業としない我々には関係ありません。直径とした広葉樹であれば何でも結構です。長さも特に気にする必要はありません。撮影を目的とするのでしたら問題ありません。農業用資材を扱っているホームセンターなどでも入手できます次に原木の側面(樹皮が付いている面)に種駒用の穴をドリルで開けます。ここで種駒とその必要性について少し説明しておきましょう。種駒というのは特定の菌をま        6(写真2)。シイタケの栽培には純ん延させた木材で、ワインのコルクを小さくした形をしています粋培養したシイタケ菌糸をまん延させた木材を種駒として(種駒)を原木に打ち込む方法を使用します。ではなぜ種駒が必要なのでしょうか。その理由はきのこたちの生存競争にあります。おとなの自由研究~木材腐朽菌~の第1回で、福田先生が描かれたきのこの生活環の図をお見せしました。木材腐朽菌の一生は、胞子が木材に付着することによって始まることになっています。しかし実際に我々が野山を歩いてシイタケが生えているのを目にすることがないことから分かるように、胞子を原木に付着させシイタケを確実に作るのは非常に困難です。というのは、木材には様々な木材腐朽菌が付着し、木材腐朽菌同士が木材内で壮絶な縄張り争いをしているからです。また、木材腐朽菌以外の菌や微生物も、虎視眈々隙あらば木材腐朽菌を食べてしまおうと狙っています。このようにライバルが多い中でシイタケ菌だけを木材内にまん延させ、子実体を作らせるにはどうすれば良いでしょうか。今から100年ほど前に森喜作先生が出した答えは、圧倒的勢力でライバルたちを一気に制圧する、というものでした。先生はシイタケ菌をまん延させた木材考案しました。種駒を原木に打ち込むと、その種駒内にあった無数のシイタケ菌糸が種駒から原木内部へと伸長し、菌糸が伸長していった部分をシイタケ菌の支配下においていきます。これを多数の拠点で一斉に行うのですからライバルたちはたまりません。多勢に無勢、シイタケ菌に打ち負かされてしまいます。この方法でライバルの木材腐朽菌やその他の微生物を確実に制圧できるようになった結果、シイタケの原木栽培が可能になったのです。種駒もホームセンターで買うことができます。通販でも買えます。種駒が入手できたら説明書に従い広葉樹材に種駒を打ち込みましょう(写真3)。このとき、種駒を満遍なくたくさん打ち込むことがより安定したシイタケ生産に繋がります。その後、原木が乾かないよう時々水をまきながら直射日光の当たらない湿っ種駒の品種によって異なりますが、長期間が経過し気温が下がるといった特定の条件が満たた涼しいところに置き、子実体が顔を出すのを数ヶ月から数年ただひたすら待ち続けます。第3回agreeable No.61 January 2022/1写真2 市販のシイタケ種駒写真3 種駒を原木に打ち込んだところ写真1 シイタケ栽培用のコナラ原木(写真1)。10㎝程度の長さでも10㎝程度の樹皮付きのがっしりおとなの自由研究〜木材腐朽菌〜森林総合研究所 桃原 郁夫

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