agreeable 第62号(令和4年4月号)
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8agreeable No.62 April 2022/4リンパ球を用いた実験でNK(Natural killer)細胞活性の抑制が認められ(Casale GP et. Al., Toxicology Letters 63, 1992)、自然免疫系への影響が示唆されました。 有機塩素系殺虫剤のγ-BHC(別名Lindane)、DDT、PCP(ペンタクロロフェノール;Pentachlorophenol)で抗SRBC抗体価の抑制が認められ、γ-BHCでは抗破傷風毒素(Tetanus Toxoid)抗体価および抗サルモネラ菌(Salmonell typhi)抗体価の抑制が報告されています。これらの免疫抑制作用の中で、PCP原体の免疫抑制反応について当初PCP原体中にはダイオキシン類が混入していることから、このような作用はPCP本来の免疫抑制ではないと考えられたものの、PCP純品を用いたラットの4週間反復経口投与で抗SRBC 抗体価の抑制が認められ(Blakley BR et. Al., Toxicology, 125, 1998)、ヒトリンパ球を用いたインビトロ(in vitro)実験でも分裂促進因子(mitogen)に対する免疫グロブリンMおよびG(IgM、IgG)およびサイトカイン(IL-2)産生能にPCP純品による抑制が認められました(Lang D & Mueller-Ruchholtz W, Toxicology, 70, 1991)。これらのことはPCPそのものが免疫抑制反応を示している事を示しています。さらにMouse sarcoma virusを用いた腫瘍誘発実験でPCP混餌投与により腫瘍発生頻度の増加が報告されました(Kerkvliet NI et. Al., Toxicol Appl. Pharmacol., 62, 1982)。この実験はPCPの腫瘍細胞の増殖に対する免疫防御の抑制反応が示唆されました。それ以外の免疫毒性においては、γ-BHCではNK細胞活性の減少が認められました。クロルダン(Chlordane)では児動物の抗原特異的遅発性過敏症(DTH)反応の抑制が認められ、このことはクロルダンの妊娠期暴露により出生児の感染防御免疫が弱められる可能性を示唆しています。 以上のように、動物実験では有機燐系、カーバメイト系、有機塩素系殺虫剤などの免疫毒性作用は報告されているものの、人での農薬の免疫毒性作用の報告は限られています。農薬では、人への直接的な暴露ないし間接的な摂取も考えられ、暴露系が特定され難いことも、農薬の人における免疫毒性作用の報告が少ない原因であろうと思われます。以下に若干の報告を記載します。木材保存剤としても有用な有機塩素系農薬のPCP(Pentachlorophenol)に関する疫学調査において、PCP処理木材にて建築した住宅に暮らす家族では風邪およびインフルエンザ様の病気が多く発生し、長期化したと報告しています(MacCornnachchie, PR et. al., Arch. Environ. Health, 46, 249-253, 1991)。また、PCPの人の血中および尿中濃度に関して、PCP処理木材使用住宅居住者の血中PCP濃度はPCP非使用住宅居住者のそれと比べ約10倍と有意に高く、加えて小児のPCP濃度は親の約2倍近い値でした(Cline RE et. al., Arch. Environ. Health, 18, 475-481, 1989)。 農薬の生物濃縮を介した暴露経路の調査では、カナダ北部のイヌイット・エスキモーの乳児に髄膜炎などの高頻度の感染症発生が認められ、母親の母乳中に高濃度の有機塩素系農薬やその他の残留性化合物が検出されました(Dewailly E et. al., Environ. Health Perspect., 101, 1993)。イヌイットの伝統食には海棲哺乳類の摂取があり、残留性有機塩素農薬の海洋汚染が進む北極において生物濃縮した有機塩素農薬が母乳を介して乳児に暴露されたと推測され、乳児の免疫系の抑制と母乳を介する残留性有機塩素農薬の暴露との関連が示唆されました。一方農薬のアレルギー性作用誘発について、結晶性蛋白毒素を製剤化した微生物殺虫剤では、殺虫剤の高濃度暴露労働者に特異的免疫グロブリンE(IgE)の増加が認められ、アレルギー性皮膚過敏症誘発の可能性が示唆されました(Bernstein IL et. al.. Environmental Health Perspectives, 107, 575-582, 1999)。次シリーズここでは、殺虫剤の免疫毒性(免疫抑制および免疫修飾作用)について文献を中心に記載しました。以降のシリーズでは実際の免疫毒性実験項目を中心に報告させていただきたいと思います。※英語名表記が多いため、横書にしております。殺虫剤の人への影響成績

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