agreeable 第62号(令和4年4月号)
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9agreeable No.62 April 2022/4一般財団法人残留農薬研究所 小坂 忠司 防蟻剤に用いられる薬剤の多くは農薬の殺虫剤であり、これら薬剤はその作用点からも解るように動物に生理活性を持つ化学物質です。殺虫剤の毒性は安全性試験を通じ詳細な調査・研究がなされてきましたが、一部の薬剤に関してはその毒性作用点が多岐にわたる可能性も考えられることから、免疫系機能を攪乱する毒性作用を持つと考えられています。また、免疫系は非自己の物質を認識し、感染症や癌細胞の増殖を制御する事で人の体を非自己の物質より守っている重要な役割を担っています。そこで、免疫毒性に関する研究としては、免疫組織を構成する細胞を標的とする細胞毒性研究や細胞機能研究、および個体レベルの免疫能に関する試験研究から構成されます。主に標的となる免疫細胞の正常な機能の抑制(阻害による免疫抑制)から免疫毒性検出試験が考えられました。一方で、化学物質の中には正常な機能を亢進するもの、あるいは標的細胞そのものを異常に刺激あるいは活性化する場合があります。この場合は、標的である免疫細胞の機能障害という直接的免疫毒性ではなく、その免疫機能を修飾する事による免疫修飾作用として免疫毒性も考えられます。以上のことから、近年、殺虫剤を含めた化学物質の免疫系に及ぼす毒性作用が注目されるようになりました。免疫毒性所見文献表1 殺虫剤の免疫毒性作用(動物実験成績)被験物質MethylparathionMalathionCarbarylCarbofuranウサギの4週間混餌投与試験系(動物および投与)マウスの反復投与実験ラットの3世代繁殖実験ウサギの反復経口投与ラット2週間吸入暴露ラット12-22週間混餌投与抗Tetanus Toxoid(破傷風毒素)抗体価の抑制γ-BHC(Lindane)マウス30日間混餌投与ウサギ5週間反復経口投与抗Salmonell typhi抗体価の用量相関性の減少マウス混餌投与 亜急性毒性抗SRBC 抗体価の抑制マウス妊娠混餌投与マウス2週間反復経口投与抗SRBC 抗体価の抑制ラット4週間反復経口投与抗SRBC 抗体価の抑制マウスの混餌投与実験DDTChlordanePentachloro-phenol(PCP)抗SRBC(羊赤血球)抗体価の抑制抗SRBC抗体価の用量依存性の抑制抗Salmonell typhi抗体価の減少抗SRBC抗体価の抑制Tuberculin皮膚反応の抑制抗SRBC抗体価の減少傾向NK細胞活性の減少児動物の抗原特異的遅発性過敏症反応の抑制Mouse sarcoma virusに対する腫瘍発生頻度増加 表1には、科学論文に掲載された殺虫剤の免疫毒性作用に関する動物実験データの概要を示しました。最初に、有機リン剤であるパラチオン(Parathion)およびマラチオン(Malathion)の免疫毒性について記載しますが、これらの動物実験報告はラット、マウス、ウサギなどの実験動物を用いた2週間以上の反復投与実験において示された免疫毒性作用であり、抗体価の抑制ないし減少を示す事例です。すなわち、これらの実験は、抗体価測定のために羊赤血球(SRBC: Sheep Red Blood Cell)あるいは サルモネラ菌(Salmonell typhi)などの抗原を暴露して、薬剤投与における抗原に対する抗体価(抗SRBC抗体価あるいは抗サルモネラ菌抗体価など)の抑制反応を観察した報告であり、パラチオンおよびマラチオンとも反復投与により免疫抑制作用が認められました。 カーバメイト類の免疫毒性については、カルバリル(Carbaryl)においても免疫抑制作用が認められました。カルボフラン(Carbofuran)では、遅発性過敏症(DTH; delayed type hypersensitivity)反応の一つであるTuberculin皮膚反応の抑制が認められ、抗体が関与しないT細胞の細胞性免疫機能への影響が観察されました。一般的に、DTH反応の抑制は、感染症の免疫反応の際に誘導される細胞性免疫の抑制であると考えられます。そのほか、カルバリルではヒトJ. Toxicol. & Environ. Health, 54, 1998Human and Experimental. Toxicology, 14, 1995J. Hyg. Epidemiol. Microbiol.Immunol 22, 1978J. Toxicol. & Environ. Health, 42, 1994Toxicol. & Applied Pharmacol., 32, 1975Bull. Environ. Contam. Toxicol,, 51, 1993Fundamental & Applied Toxicology 11, 1988J. Hyg. Epidemiol. Microbiol.Immunol 22, 1978Bull. Environ. Contam. Toxicol, 37, 1986Toxicology and Applied Pharmacology, 62, 1982J. Toxicol & Environ Health, 20, 1987Toxicology, 125, 1998.Toxicology & Applied Pharmacology, 62, 1982はじめに殺虫剤の動物実験成績薬剤の免疫毒性について(シリーズ1)薬剤の知識

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