agreeable 第62号(令和4年4月号)
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オオキノコシロアリの巣3agreeable No.62 April 2022/4アリ自身が放出する熱が巣内に保持された結果なのだろう。アリはキノコを栽培しながら生活している。そう、オオキノコシロアリの巣は住居であると同時にキノコの栽培施設であり、ノコバシロアリとはちょっと事情が違っているのである。二酸化炭素濃度をコントロールする必要があり…と、素人があまり適当なことを書くと、数ページ先のライバル連載(筆者も愛読者である)にう。要は、シロアリの栽培するキノコが生育するには28~30℃の温度が必要であるらしく、オオキノコシロアリは巣の中をかなり高い温度に保たねばならないのだ。これは、ノコバシロアリの巣の中心部温度より2℃以上も高い。ころだけれども、ちょっと問題がある。過去に本誌でも紹介しているように、オオキノコシロアリの巣は恐ろしく頑丈なのだ。雪ではなくレンガ大きさも形もまさしくオオキノコシロアリの巣と同じものになる。高ささしくレンガ粘土で、またこれがよく乾燥しており、本物のレンガのように硬い。なんでも、オオキノコシロアリはこの外壁用の土をわざわざ地オオキノコシロアリの巣では、シロキノコの栽培では、温度・湿度・突っ込まれそうなのでやめておこそれでは早速測定、といきたいと粘土でかまくらを作ったとしたら、そ30cm、外壁に使われている土はま中深くから掘り出してくるらしい。しかし、なんでこんなに硬いのか。「ゾウが踏んでも壊れない」、確かにゾウもいるにはいるが、いやいや、明らかにそんなものではない。ゾウが4本足で玉乗りするように乗ったとしてもきっと壊れることはないだろう(いや、もしかしたら壊れるかも…)。それはさておき、巣に穴をあけるにあたって、シロアリ生態学者としてのこれまでの経験と知識から、最初はシロアリが逃げないようにとか、塚内の空気の流れを乱さないようにとかいろいろ気にしていたのだが…。最終的にたどり着いた先は、鉄棒の握り棒くらいの鉄パイプを鉄の鍬や金槌でなりふり構わず全力で打ち込むという方法であった(写真2)。鉄パイプであけた直径3cmくらいの穴から巣の中心部へ向かってシュルシュルとセンサーを落とし込み、隙間を油粘土で塞いだ(写真3)。今回はさすがに防水性の温度センサータイプを使っている(ホームセンターで数千円)。たたいたり穴をあけたりしてしまったので巣の中がさぞかし混乱しているだろうと、そのまま1時間ほど放置しておいた。戻って温度計の表示を確認すると、ん、なんかおかしい、ちょっと温度が低すぎる。そっとセンサーを引き出し確認してみると…、な、な、なんと、センサーがオオキノコシロアリに異物として認識されてしまったのか、レンガ粘土で塗り固められてしまっており、あわや壁に埋め込まれるところだった。どうも1時間は長すぎたようなので、センサーを落とし込んでから10分後に測定することにした。もちろんロガーも使えないので(壁に埋め込まれてしまう)、研究の方針を変え、たくさんの巣で測定して巣の中がどうなっているか調べることにした。さて、何℃だったかというと、だいたい27~30℃(グラフ2)。なるほどなるほど、キノコの生育温度を見事に満たしている。このオオキノコシロアリの巣は外壁を分厚くして熱伝導率を下げ、巣の中のシロアリとキノコが出す熱を逃がさないようにすることで、高い温度を保っているんじゃないかと考えている。ただし、グラフを見ると小さい巣だと温度が低い傾向にあるようだ。この巣は、大きくても小さくても同じ形をしていた(巣の高さと壁の厚さの比率が同じだった)ので、小さい巣だと薄い壁から熱が逃げてしまうために温度が低くなっているのかもしれない。素早く成長することが生き抜くための最初の試練なのか、興味は尽きない。 0      )℃(度温部心中60cmの巣ならば、外壁の厚さはおよ巣に穴があきつつあるこれについては次回に油粘土で穴の隙間を埋めている3230282624222020鉄パイプがたたかれて畳まれている高速で見えないが、鉄鍬でたたいている穴からセンサーを下ろしている28.5℃を表示している8040巣の高さ(cm)グラフ2 オオキノコシロアリの巣の中心部温度60小さい巣だと温度が低い傾向にある100120写真2 オオキノコシロアリの巣に穴をあける写真3 オオキノコシロアリの巣を測定中

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