agreeable 第63号(令和4年7月号)
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9agreeable No.63 July 2022/7一般財団法人残留農薬研究所 小坂 忠司 前号において、有機リン剤のパラチオン(Parathion)、マラチオン(Malathion)、有機塩素系殺虫剤のγ-BHC、DDT、PCPにおいて抗SRBC抗体価の抑制、γ-BHCでは抗破傷風毒素に対する抗体価および抗サルモネラ菌に対する抗体価の抑制などを紹介しました。このように、ラット、マウスなどの実験動物を用いた反復投与実験において免疫毒性作用として抗体価の低下を示す報告が認められています。 今回は、免疫系機能を攪乱する毒性作用の主体となる毒性作用として、獲得免疫の抗体価に及ぼす影響を中心に、有機塩素系殺虫剤メトキシクロル(MXC:Methoxychlor)の実験例をお示し致します。 最初に免疫毒性作用の抗体価に及ぼす影響調査に先立ち、胸腺萎縮を主徴とする免疫担当細胞への影響調査を示します。幼若マウスにMXCを3回経口投与(3用量; 150、300、400 mg/kg)してその後の胸腺細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を観察しました。図1および2では、フローサイトメトリー法および電気泳動法にてマウ図1 メトキシクロル投与後の幼若マウス胸腺細胞アポトーシス誘導   フローサイトメトリー検査ControlMXC 300mg/kgMXC 150mg/kgMXC 400mg/kgAnnexinV陽性細胞(アポトーシス陽性細胞)図2 メトキシクロル投与後の幼若マウス胸腺細胞アポトーシス誘導   DNA断片化確認表 1 2週間反復投与試験概要ス胸腺細胞のアポトーシス誘導検査を実施しております。図1の検査では、細胞膜上のアポトーシスマーカーのホスファチジルセリンに結合するアネキシンVを染色した後にフローサイトメトリーにてアネキシンV陽性細胞を検出しており、MXC 400 mg/kg投与動物では明瞭なアネキシンV陽性細胞(アポトーシス陽性細胞)が認められました。図1の検査では、MXC 300および400 mg/kg投与動物の胸腺細胞でDNAラダー(ヒストン蛋白当たりのDNA断片化)が認められました。これらの結果よりMXCは幼若マウスの胸腺細胞に対してアポトーシスを誘導することが示されました。 次に、メトキシクロルの獲得免疫に及ぼす影響を確認するために2週間反復投与試験を行いました。試験概要を表1に示します。動物は3系統の雌マウスを用いてMXCの0、150、500および1500 ppm投与用量で混餌投与(MXCを餌に混ぜて投与する方法)して獲得免疫の抗体価を調査しました。実験では6×107個のヒツジ赤血球を用いて解剖の4日前に静脈内投与で免疫し、PFC 法(脾臓細胞供試動物:ICR、Balb/c および C3H/He系マウス(雌マウス)被験物質投与: メトキシクロル(MXC)0、150、500、1500 ppm投与期間:2週間免疫: 羊赤血球(6x107個/匹; 最終解剖の4日前に静脈内投与)測定:・血中の抗羊赤血球 IgM(免疫グログリン)抗体価   ・脾臓細胞中のIgM PFC(Plaque forming cell)反応Control150mg/kg300mg/kgメトキシクロル投与ヒストン蛋白あたりのDNA断片化(混餌投与)400mg/kg陽性対照物質薬剤の免疫毒性2抗体価に及ぼす影響(シリーズ2)薬剤の知識

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