agreeable 第66号(令和5年4月号)
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神経系の構造はじめに免疫毒性についてご紹介した前回シリーズの冒頭で述べられていた通り、防蟻剤に用いられる薬剤の多くは農薬の殺虫剤であり、特に昆虫の神経系に作用して薬効を発揮する物質が主要な部分を占めています。そのため、ヒトを始めとした他の動物の神経系にも選択的に影響を及ぼす、いわゆる神経毒性作用を有する多くの薬剤が存在します。現在では、有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系、有機塩素系などの古くから使用されてきた薬剤に加え、ネオニコチノイド系、ネライストキシン系、フェニルピラゾール系、セミカルバゾン系、メソイオン系、ブテノライド系など神経系に作用する多数の薬剤が開発されています。また、天然物ではフグ毒のテトロドトキシン、カビ毒のアフラトキシン、細菌毒型食中毒を起こすボツリヌス菌毒素などが神経毒性物質として良く知られています。神経毒性を有する可能性がある化学物質を農薬などとして登録申請する場合は、その影響を明らかにするために単回暴露から長期暴露、妊娠期や授乳期の子供への暴露など、何種類もの神経毒性に関する試験を実施して、ヒトに対する安8   全性について詳細な検査が行われます。まずは基本的な神経の構造についてご紹介します。神経信号を体中に伝達する役割を持つ神経細胞は、神経細胞体から突き出た樹状突起と長く伸びる軸索から構成されます。これがニューロンと呼ばれる神経の基本単位です。このニューロンが複雑につながりあって神経系を構成しています(図1、写真1、2)。ニューロン内での神経情報は、神経細胞体から軸索の末端へ電気信号(活動電位)として伝わります。もう少し詳しく説明すると、静止状態では細胞の外側に対してマイナスに荷電しているニューロンが刺激を受けると、表面の膜にあるナトリウムチャネルが開きます。このチャネルを通して細胞外のナトリウムイオンが細胞内に流入して内側と外側の電位が逆転し、内側がプラスに荷電します。すると、隣のチャネルも電位差の異常を感知して開き、さらに隣がと連鎖的に反応します。チャネルが開く時間はおよそ1000分の1秒というごく短時間ですので、この瞬間的な動きが順次伝一般財団法人残留農薬研究所 首藤 康文agreeable No.66 April 2023/4写真1  ラット大脳の神経細胞体 写真2  ラット大脳の神経軸索 図1 神経細胞(ニューロン)の構造(クリューバーバレラ染色)(ボディアン染色)薬剤の知識薬剤の神経毒性ー神経系の構造(シリーズ1)

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