agreeable 第66号(令和5年4月号)
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9agreeable No.66 April 2023/4(図2)。わっていくという仕組みです。これが神経細胞の興奮と呼ばれる現象で、信号が神経終末すなわち軸索の末端まで伝達されますニューロンは次のニューロンと20~30 nm程度のわずかな隙間でつながっています。この隙間をシナプスと呼びます。神経終末まで伝わった電気信号が、このシナプスという隙間をどのように乗り越えて次のニューロンに神経信号を伝達するかご説明します。シナプスでの情報伝達を端的に表現すると、神経伝達物質と総称される化学物質を介して行われます。詳細に説明すると、信号の送り手であるニューロンの神経終末ボタンあるいはシナプス小頭などと呼ばれる軸索終末部に到達した神経興奮すなわち電位の変化がカルシウムイオンチャネルを開いて、細胞外のカルシウムイオンが軸索終末部に流入します。それが刺激になって神経伝達物質を蓄えているシナプス小胞が細胞膜(シナプス前膜)に移動して接し、神経伝達物質を細胞外に開口放出します。シナプス間隙に拡散した神経伝達物質は、信号の受け手側である神経細胞の樹状突起の細胞膜(シナプス後膜)に分布する神経伝達物質の受容体(レセプター)に結合します(図3)。それによって、樹状突起側のナトリウムチャネルが開きナトリウムイオンが細胞内に流れ込んで小さな電位が起こります。たくさんの受容体に神経伝達物質が結合して足し合わされた電位が十分な大きさになると活動電位が生じて、再び電気信号として受け手側のニューロン内を伝わって行きます。シナプス間隙に放出された神経伝達物質は、過剰に刺激が伝わらないようにするため酵素によって速やかに分解して神経終末に吸収されて再利用されます。代表的な神経伝達物質には興奮を伝えるアセチルコリンと興奮を抑制するGABA(γアミノ酪酸)があり、それぞれアセチルコリンエステラーゼとGABAトランスアミナーゼが分解酵素として存在します。このような仕組みで神経系によって信号が伝達されることによって、動物の行動や生理活性が正常に保たれています。神経に作用する殺虫剤の多くは、昆虫の神経伝達物質やその分解酵素、あるいは神経伝達物質が結合する受容体、神経伝達に必要なイオンチャネルなどの、伝達経路のいずれかに作用を起こして正常な伝達を妨げることによって殺虫効果を示します。次回は、神経系を標的とする殺虫剤の作用部位と効果について具体的にお話しします。図2 軸索伝達のイメージ図3 シナプス伝達のイメージ      

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