agreeable 第66号(令和5年4月号)
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種の同定のためのPCRにおけるプライマーリアでも共通の部分(黄色)と種類が異なると違いがある部分(青色、V1~V9)が交互に並んでいます。共通部分に結合するようなプライマーを設計すれば、たとえ対象のDNAがどんな生物由来のものかわからなくても、あるいは遺伝子情報が得られていない生物のDNAであっても、PCRによる増幅が可能となります。図2では、種の同定によく使われるV3V4領域を含むDNAを共通の部分に設計されたプライマー(赤および緑)を用いて増幅する様子が示されています。プライマーの設計にはいくつか注意点がありますが、それは実践的な文献や教科書がたくさんあるので、それらに譲ります。前号ではPCRの原理について解説しまし4  た。少し難しく感じたかもしれませんが、昨今はPCRという用語がすっかり一般に市民権を得た用語となったので思い切って解説してみました。PCRはDNA分子を酵素的に爆発的に増幅させる技術です(前号参照)。この酵素反応に必要なものは、DNA合成酵素、ヌクレオチド(DNA分子の材料)、プライマー(増幅する範囲を指定できる短いDNA分子)です。これらに加えて鋳型DNAを加えるのですが、鋳型がなければ増幅しないので、対象の遺伝子がない(=生物はいない)というように検出に利用します。この場合のプライマーはその種にしかない遺伝子配列が検出できるように設計します。生物種の選択性を高くした特異的プライマーは遺伝子診断に使えます。微生物検出・種の同定のためのプライマーには大きく分けて2通りあると考えられます。ひとつは前出の特異的プライマー、もうひとつはユニバーサルプライマーです。ユニバーサルプライマーは幅広い生物間で同じように使えるプライマーです。したがって、どの生物でも持っている遺伝子の配列を使います。最も幅広く使われているのがリボソームRNAをコードしているDNA(リボソームDNA、rDNA)です。リボソームとは、細胞内に無数にあるタンパク質を合成する粒子で、RNAとタンパク質でできたタンパク質合成装置です。大小の塊からできている粒子で、細胞にもない細胞にもたくさん含まれています(図1)。RNAとはDNAと同じく核酸に分類される分子で、リボソームの粒を作っています。タンパク質はどんな生物でも作るので、広い生物に共通する遺伝子といえます。もっとも単純な生物であるバクテリアに関して話を進めると、バクテリアの検出・同定にはrDNAのうちの小サブユニットの遺伝子を使います。図2はrDNAの小サブユニットの遺伝子構造を示しています。長さ約1500塩基(塩基はDNAの長さの単位)の遺伝子ですが、その中にどんなバクテ高知工科大学 堀澤 栄agreeable No.66 April 2023/4図1 細胞とリボソームの大きさ.カビ・きのこが含まれる真核生物の細胞は10µm前後、原核細胞は直径約1µm、リボソームは10~20nmである.図2 リボソーム小サブユニットの遺伝子構造. 黄色い部分は生物間で共通、青い部分(V1~V9)は生物によって異なる遺伝子配列になっている.図ではプライマー337Fと805Rを用いたPCRで増幅物が得られる様子を示している.第2回木材腐朽菌ケンキュウ室分析技術②〜プライマーとDNAバーコード〜

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