7agreeable No.66 April 2023/4た7。比較的鮮度の高い組織片を培養すると、数日後に線スナメリの細胞培養スナメリの細胞を用いた毒性試験瀬戸内海に生息するスナメリ第7回愛媛大学沿岸環境科学研究センター 落合 真理 第1~6回の「化学物質における環境への影響」シリーズでは、様々な生体組織や環境試料に残留する環境汚染物質に関する内容を紹介してきました。最終回では、環境汚染物質が鯨類の培養細胞に及ぼす影響を評価した研究について紹介します。 瀬戸内海にイルカが生息していることはご存じでしょうか。スナメリ(Neophocaena asiaeorientalis)は非回遊性の小型鯨類で、日本、韓国、中国東部の沿岸域に生息しています1。本種は絶滅危惧種として国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに掲載されており1、日本では水産資源保護法に指定されています。日本沿岸では瀬戸内海を含む5つの海域にスナメリが生息しています2。瀬戸内海のスナメリ系群は、1970 年代後半から 2000 年にかけて個体数が約7割減少したと言われており3,4、その原因として、生息地の劣化と喪失、漁網による混獲、船舶との衝突、環境汚染物質への曝露などの人為的要因が疑われています1。 一般に、イルカは残留性有機汚染物質(POPs)などの化学物質を体内に蓄積することが知られています。瀬戸内海のスナメリも例外ではなく、極めて高濃度の残留性有機汚染物質(POPs)の蓄積が報告されています5,6。しかしながら、POPsがスナメリにどのような毒性影響図1.漁網により混獲された瀬戸内海のスナメリを及ぼしているかは不明な点が多く、法的・倫理的な制約から毒性学的研究は困難でした。 このような問題を解決するため、著者らの研究グループは、漂着や混獲により死亡したスナメリ(図1)の体細胞を培養し、環境汚染物質の毒性影響評価に取り組んできました。近隣の海岸にイルカが漂着又は漁網により混獲すると、行政を経て愛媛大学に連絡を受けます。剖検後、これらの標本は、病理学的調査、食性解析、環境汚染物質の分析など、様々な研究に供試されます。近年では、すでに死亡した個体でも状態が良好であれば細胞は生きていて、培養可能であることがわかってきまし維芽細胞とよばれる細胞が遊走し始めます。定期的な培地交換を経て、数週間でフラスコの底を埋め尽くすまでに細胞が増殖します。その後、数回継代・精製し、増殖能が良い細胞については凍結保存しています。 上記の手法で調整したスナメリの線維芽細胞に、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)やジクロロジフェニルトリクロロエタンおよびその代謝物(DDTs)等の環境汚染物質を曝露し、細胞毒性を評価しました7。曝露濃度の上昇に伴い細胞毒性が増強する傾向が認められ、多くの汚染物質は高濃度で細胞死を引き起こしました。なかでも、ダイオキシン類(2,3,7,8-TCDD およびダイオキシン様 PCB)は、他の被験物質よりも強い細胞毒性を示すことが明らかになりました。PCBsとDDTsは、スナメリ体内の蓄積レベルに相当する濃度で細胞毒性を誘発したため、スナメリに対するこれらの化合物の影響を注視する必要があります。 さらに、スナメリの皮下脂肪(脂皮)から抽出した スナメリの培養細胞を用いた環境汚染物質の毒性影響評価化学物質における環境への影響
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