agreeable 第67号(令和5年7月号)
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トリコニンファの仲間ホプロニンファの1種(図1)小泉丹博士(図2)スピロトリコニンファの仲間スピロトリコニンファ・リュウキュウエンシス(図3)スピロニンファ・ポルテリ(図4)マトシロアリに共生する原生生物の多くは1916〜17年(大正5〜6年)に、小泉丹(まこと)博士(図2A)に勤務ののち、慶応義塾大学医学部教授を務めた寄生虫学者です。回虫やマラリア原虫の研究で有名ですが、生物進化に関する学説の日本への紹介者でもあります。例えば岩波文庫の「種の起源」(旧版:ダーウィン著)、「動物哲学」(ラマルク著)、「雑種植物の研究」(メンデル著)の翻訳もされています。進化に関する洋古書の収集が趣味でもあったそうです。筆者が大学院生だった1995年頃、東京都にある目黒寄生虫館には博士の自筆ノートなどが展示されていました。こんなところで、とびっくりした思い出がありますが、現在は残念ながら展示はないようです。前回紹介した「トリコニンファ」の仲間と並んで、シロアリに共生する原生生物の大きなグループの一つが「スピロトリコニンファ」の仲間です。スピロとはらせんを意味します。このグループも細胞の表面からたくさんの鞭毛が列を作って生えているのですが、その鞭毛の列は細胞の前端部から螺旋状に細胞後方へ向かって伸びているのが大きな特徴です。このグループの原生生物は、鞭毛の列がらせん状になっているため、たくさんの鞭毛を動かすことで、細胞全体をドリルのように回転させながら前方へと進みます。その様子は、海底軍艦轟天号やゲッターロボ2号を思い出させます(例えが古いですね…)。型の原生生物で体長は45〜119㎛、細胞は細長い紡錘形で細胞の前端から多くの場合2〜4本の鞭毛の列がらせん状に伸び、細胞の後端付近まで達します。染色標本の写真では、体の前半部分にある核と、らせんを巻いた帯状の鞭毛列の付け根部分、それにそって配列される粒状の「副基体」が濃く染色され、なかなか優美な形態です。日本では山口県下関市付近に生息するカンモンシロアリ、宮古島のオキナワシロアリ、八重山諸島のヤエヤマシシロアリの腸内の原生生物を紹介する本稿ですが、第2      二回目は、まず前回紹介しなかった変わった「トリコニンファ」の仲間をご紹介します。次に、日本ではじめてシロアリの共生原生生物を研究した小泉丹博士について述べ、その後に「スピロトリコニンファ」の仲間の原生生物をご紹介します。つの多数の鞭毛からなる束が生じています。この鞭毛束をまるで手旗信号でもするように交互に前後に動かしながら運動します。細胞の綱を構成する繊維のように見えるものは、細長い細菌が細胞表面に付着したものであることがわかっています。この種では、シロアリが咀嚼した木材の細胞内への取り込みが見られません。おそらく別な種が木材を分解した産物を二次的に利用しているのだと考えられます。前回紹介したテラニンファ・ミラビリスをはじめ、ヤによって台湾総督府白蟻調査報告第V〜Ⅵ回に記載されました(図2B)。小泉博士は京都に生まれ、東京帝国大学伝染病研究所、台湾総督府研究所沖縄本島や宮古島に分布するオキナワシロアリと、奄美大島や徳之島に分布するアマミシロアリに共生する原生生物です。リュウキュウエンシスは「琉球の」という意味ですが、最近新種として記載されました 1)。大この種はオオシロアリに共生する種です。細胞は細長く、顕微鏡で見ると細い繊維を撚り合わせて作った綱のように見えます。その前端部付近に核があり、核の少し前側に2第2回茨城大学理学部 北出 理agreeable No.67 July 2023/7図1 ホプロニンファの1種 A:細胞は細長く、綱のように見えます。 B:鞭毛の束を交互に動かします。図2 A:小泉丹博士(日本放送協会関東支部編『ラヂオ講演集. 第3輯』1926年より) B:第5、6回台湾総督府白蟻調査報告と図の一部 博士をまねて古書を買ってみました。図3 スピロトリコニンファ・リュウキュウエンシスの染色標本シロアリのお腹の中をのぞいてみよう-共生原生生物の話-

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