agreeable 第67号(令和5年7月号)
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DNA配列による菌類の同定法菌類のDNA抽出の概要木材腐朽菌の形態情報に基づく鑑定は、その多様性が大きいので熟練者以外には非常に困難なことがあります。DNAの塩基配列に基づく同定方法の良いところは誰がやっても同じ結果となるところです。一方で少し時間がかかります。日頃よりルーチンワークで同定作業をする環境にない場合は、やや手間がかかるのは否めません。木材腐朽菌などの真菌類のDNA抽出は、筆者の経験では、マウスや魚などの動物に比較すると、ややハードルが高いと言えます。今回はDNAを用いた菌類の同定の実験室的な手順を紹介します。DNA配列を用いた同定方法は、鑑定の熟練度にかかわらず結果が得られるとはいえ、自身でDNAを扱うのであればそちらの技術が必要になります。また、形態に基づく鑑定なら、ほぼ瞬時に同定することさえ可能ですが、DNA抽出を介すると数日間必要となります。図1にDNAを用いた同定方法の一例を示しました。菌糸や子実体などの菌体組織や、菌体を含む腐朽材などを試料としてDNAを抽出します。自前で試薬類の調製から行うとさらに時間がかかりますが、現在はよく設計された抽出キットが販売されており、目的生物ごとに条件が考慮されて、使いやすくなっています。キットを用いた抽出では、1時間〜数時間を要します。DNAが抽出できたかどうか確認するにはいくつか方法がありますが、頻用されるのはUVの吸光度です(図2)。DNAは波長約260ナノメートルの光を吸収します。これはDNAを構成している塩基の吸収によります。この方法では、装置にもよりますが、下限としては1マイクロリットル中、数十ナノグラムのDNA濃度程度まで測れます。実は菌類の細胞からDNAを抽出する場合は大量に得られない傾向にあるので、UVによる検出の限界を下回ることもあります。しかし感度のよいPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)でゲノムの任意の部分を増幅し、PCR産物が得られるかどうかをもって、DNAの存在を確認することができます。一般的なPCRでも100分の1ナノグラムのDNAでもPCRは可能です。したがって図1に示したように、抽出結果の確認にPCRを用います。PCRの全反応はだいたい1時間、反応生成物の検出のための電気泳動に30分程度を要します。高知工科大学 堀澤 栄4agreeable No.67 July 2023/7図2 DNAの吸収スペクトル.図1 DNAを用いた菌類の同定方法の流れ.木材腐朽菌ケンキュウ室第3回分析技術③〜菌類のDNA抽出から同定まで〜

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