agreeable 第67号(令和5年7月号)
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DNA抽出の原理ショートカットコースおまけ5agreeable No.67 July 2023/7DNAを取り出すために行うことは、①試料の組織の細胞を破壊し、②DNA分子を保護しているタンパク質を分解してDNAを取り出す、③DNAとタンパク質を分離する、④DNA以外の夾雑物を取り除く、という4つの過程に分けられます(図3)。①の試料の破砕では、乳鉢に試料と液体窒素を入れてよくすりつぶします。試料は低温で凍結するので、破砕しやすくなります。液体窒素が得られない場合、または腐朽木材など乳鉢では破砕できない試料では、プラスチックチューブに試料とともにガラスまたはジルコニアのビーズを入れ、機械によって激しく振とうして破砕します。この時、DNAを保護する緩衝液を加えるのが一般的です。②の細胞膜、タンパク質分解では、アルカリ性の試薬とフェノールなどの有機溶媒を加えて、少し加熱します。フェノールなど有機溶媒は毒性があるので取り扱いに注意しなければなりませんが、タンパク質分解には頼りになります。時々攪拌しながら加熱するので、処理後はよく混ぜたドレッシングのようになります。その後、遠心機を用いてこれらを水層、有機層に分離します。実際にはそれら二層の間に中間層が形成されます(図3③)。中間層は、タンパク質が含まれます。タンパク質分子は疎水性、親水性の両方の部分を含むので、中間層に捉えられます。上層の水溶液にDNAが溶解しているので、水層を注意深く回収します。この水層にはDNAの他、糖類などの夾雑物がたくさん含まれています。そこでナトリウム塩などの塩およびアルコールを加えると、高分子であるDNAは溶解できなくなって析出してきます(アルコール沈殿法)。遠心分離によって析出したDNAをチューブ底部に集積させ、上澄みを廃棄することで夾雑物を除きます。次のPCRのためには、DNAに残ったアルコールを完全に除去する必要があります。近の抽出キットは、時間と手間を軽減するために、シリカメンブレンを使ったカラム法や、表面にDNAが結合するように加工されたマグネットビーズを用いた精製法が採用されたキットが販売されています。さらには図1の左側に示した「ダイレクトPCR」が使える場合は、抽出の必要さえありません。腐朽菌の組織の一部をPCRのチューブに直接投入します。PCRの温度サイクルでは95℃程度の高温の工程があるので、その際に細胞や核が破壊されて内部のDNAが流出し、PCRの鋳型DNAとなることができます。ただしダイレクトPCRが適用できる試料は限られています。菌体組織にPCR阻害物質を含むものも多く、腐朽材のような植物組織はPCRを阻害する物質が含まれます。そのような試料ではDNA抽出および精製操作が必須となります。DNA分子を用いた解析にはDNA抽出が非常に重要になります。抽出の際にはDNAが分解されないような対策を講じる必要があります。破砕された細胞にはDNAを分解する酵素も多く含まれることから、これらが働かないような条件のもとで抽出操作を行う必要があります。また、他の生物のDNAの混入を防がなければなりません。そうでないと、PCRで「増幅確認できた!」と喜んでいたら自分のDNAだったということも起こります。生体分子の分析において、抽出は最も重要であると心得るべきでしょう。以上のようにDNA抽出は少し煩雑です。最図3 DNA抽出の原理.

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