agreeable 第67号(令和5年7月号)
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シナプスにおける神経伝達物質の分解酵素に作用する殺虫剤シナプスにおける神経伝達物質の受容体に作用する殺虫剤シリーズ1回目では神経系の基本的な構造と情報伝達の仕組みについてお話ししました。2回目の今回は、神経系を標的とする殺虫剤にはどのような種類があって、どの部位に作用して効果を現すのかについてご説明します。アセチルコリンエステラーゼ活性阻害:シナプス前膜から放出される神経伝達物質であるアセチルコリンは、必要以上に興奮が持続しないように分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼによって速やかに分解されます。殺虫剤成分が作用してアセチルコリンエステラーゼの活動を妨げることによって分解できなくなると、アセチルコリンがシナプス部位に異常に溜まって興奮を伝え続けるようになります。その結果、害虫の神経系は持続性の興奮状態となり、激しく動き回った後に麻痺して死に至ります。このタイプの作用を持つ殺虫剤は次の通りです。●有機リン系、カーバメート系などシナプスのニコチン性アセチルコリン受容体活性化:シナプス後膜にはアセチルコリンが結合して興奮を伝達する受容体があります。殺虫剤成分がアセチルコリンに代わってこの受容体に結合すると興奮伝達が過剰に持続します。その結果、害虫の神経系は持続性の興奮状態となり、激しく動き回った後に麻痺して死に至ります。このタイプの作用を持つ殺虫剤は次の通りです。●スピノシン系などシナプスにおけるニコチン性アセチルコリン受容体活性化と神経伝達遮断:前述と同様に殺虫剤成分がシナプスのアセチルコリン受容体に結合して興奮を過剰に伝え続けた後に、興奮を伝える神経伝達を遮断します。その結果、害虫は全身的な麻痺症状を起こして動けなくなって死に至ります。このタイプの作用を持つ殺虫剤は次の通りです。●ネオニコチノイド系、スルホキシミン系などシナプスのニコチン性アセチルコリン受容体の神経伝達遮断:このタイプも同様に殺虫剤成分がシナプス後膜にあるアセチルコリン受容体に結合しますが、興奮性の刺激を遮断することによって神経伝達を妨げます。その結果、害虫は全身的な麻痺症状を起こして動けなくなって死に至ります。このタイプの作用を持つ殺虫剤は次の通りです。●ネライストキシン類縁体などシナプスGABA受容体のイオンチャネル阻害:シナプス後膜にある抑制性の神経伝達を担っているGABA受容体に殺虫剤成分が結合して神経伝達を遮断します。その結果、抑制が効かなくなった害虫は刺激性の神経伝達をコントロールできなくなり、異常興奮を起こして死に至ります。このタイプの作用を持つ殺虫剤は次の通りです。●フェニルピラゾール系などオクトパミン受容体の活性化:外敵や激しい温度変化などのストレスから身を守る時に働く交感神経系に殺虫剤成分が作用します。その結果、過度な刺激が繰り返し与えられてショック症状を起こして死に至ります。このタイプの作用を持つ殺虫剤は次の通りです。●アミトラズなどシナプスのGABA受容体、グルタミン酸受容体の活性化:シナプス後膜にある抑制性の神経伝達を担うGABA受容体やグルタミン酸受容体の塩素イオンチャネルを殺虫剤成分が活性化し、抑制性の刺激を過度に伝達します。その結果、害虫は麻痺状態に陥って死に至ります。このタイプの作用を持つ殺虫剤は次の通りです。●アベルメクチン系、ミルベマイシン系など6 一般財団法人残留農薬研究所 首藤 康文agreeable No.67 July 2023/7薬剤の知識薬剤の神経毒性ー神経系を標的とする殺虫剤(シリーズ2)

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