蟻害腐朽の最前線から③調査見積りをしていると、様々な歴史的文化財や古民家などに遭遇されると思います。文化財は、長い歴史の中で先人たちの不断の努力によりその風土と文化伝統によって生まれそして引き継がれ現在まで守り伝えられた貴重な財産であり、私たちに心の安らぎを提供してくれるとともに歴史や文化の理解のため欠くことのできないものであります。しかしながら近年の地球温暖化による過去に経験のない集中豪雨や台風などの自然災害のほかにも急激に加速していく少子化に伴う人口減少や地域の過疎化、高齢化などにより文化財を保護する環境が危機的状況となる中、後継者や管理者がおらずシロアリ被害に遭っても対応できずに放置されていく物件など今後の文化財の承継に大きな影響が感じられます。国内の歴史ある建物はその価値に応じて「国宝」、「重要文化財」、「登録有形文化財」と定めて保存・活用を図っています。文化財に指定され手厚く保護されている建物ではこれからも保存修理によってかなりの確率で後世に遺されていくものと思われますが、これに該当しない建築物に関しては今後かなりのスピードで解体され消滅していくものと思われます。住宅で見ると明治・大正時代に建てられた住居を今後どうしていくかと考えた場合、蟻害や腐朽をはじめ耐震強度や雨漏れそして現代の生活にあった間取りや設備などを考えると、解体してコンパクトな現代風の家に建て替えたほうが使い勝手が良いという結果になり取り壊しが相次いでいます。また神社仏閣でも、今までは町内会の寄付や檀家などの浄財により何とか維持保存されてきた社寺も、現代そしてこれからの世代の宗教離れで祭りや法事など信仰心が薄れていき今後はおそらく廃寺廃社となる物件も増えてくると思われます。そんな中でも私が遭遇した物件をいくつかご紹介いたします。松山道後温泉では、コロナ禍で閑散としていた温泉街もほぼ以前の活気を取り戻しつつあります。重要文化財である本館の令和の大改修工事が来年度令和6年に完了予定でこれから観光客の復活の兆しが見え始めた中、歴史的な物件が消えようとしています。それは坊ちゃん列車で有名な道後温泉駅から道後温泉本館に続く商店街の中にある店舗。その店舗は明治時代から旅館として営業しており夏目漱石が松山に着任した際に数日間滞在し、俳人正岡子規や柳原極堂らと交流を深めたと云われております。立地条件もよく、戦後は改装を重ね旅館を営みながら併用して土産物店として繁盛していました。しかし建物の老朽化と店主の高齢化そして追い打ちをかけるようにコロナ禍による観光客の減少で数年前から閉店に追い込まれてしまいました。歴史的な場所でありながら、度重なる改装で文化財としての価値が認められず何の補助もないままに放置されていました。天井からの雨漏れや複雑な内装でシロアリの被害も複数あり、解体のタイミングを待つだけという所有者の言葉に一つの歴史が消えゆくさまを垣間見ました。江戸後期に建築された建物で敷地面積100坪はあろう広い敷地に建つお屋敷。亡くなられたご主人は外交官で退職後も海外で生活していましたが、やはり終の住処は生まれ育った地元でと帰郷されたようです。しかし数年程前からイエシロアリ被害が目に見える範囲に広がってきたということで調査をすると被害は梁桁まで及んでいましたが、ご先祖様から受け継いだこの家を遺したいという強いご希望もあって駆除◎ 築150年の古民家◎ 夏目漱石や正岡子規も交流?道後の旅館 株式会社友清白蟻 山辺 利成14agreeable No.68 October 2023/10看板には「夏目漱石ゆかりの店」とあります消えゆく文化財・遺る文化財
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