神経毒性試験の種類神経毒性の検査方法シリーズ2回目では神経系を標的とする殺虫剤防蟻剤には農薬として登録されている殺虫剤がコリンエステラーゼ活性阻害作用をもつ化学物化学物質を単回あるいは反復経口投与して、神経系への影響を調べます。通常、ラットを用いて試験を行い、総合的な行動観察および機能検査、神経病理学的検査、生化学的検査などを実施して、神経系に対する機能的あるいは構造的な障害について調べます。発達神経毒性試験は妊娠期から出産後の哺育期を通して母動物に化学物質を経口投与し、出生児における神経発達への影響を調べます。通常、ラットを用いて試験を行い、急性および反復経口投与神経毒性試験と同様に総合的な行動観察および機能検査、神経病理学的検査、生化学的検査などを実施します。さらに若齢期と成熟期において、学習および記憶検査や脳の各部位の大きさや厚さを測定して発達状態を調査する形態計測などの特殊な検査を行います。続いて、具体的な検査方法についていくつかご紹介します。体位および姿勢、呼吸状態、不随意な筋収縮(攣縮、振戦、痙攣)、常同行動、異常行動、探索行動、歩行異常、被毛の状態、皮膚色、排泄物の状態、筋緊張、取り扱いに対する反応など多くの項目について、ケージ内、観察台および触診の各方法で実施します(写真1、表1)。観察結果は、試験機関によって予め定められた判断基準と採点基準に基づいて客観的に記録されます。機能検査では、感覚運動反応(視覚、聴覚、皮膚感覚、平衡感覚など固有受容器の機能に関する検査)、握力、自発運動量、体温、着地開脚幅などの測定を行います(写真2および3、表2)。詳細な状態の観察および機能検査では、観察者の思い込みを防ぐため動物の検査順を無作為化して、投与されている化学物質の量を観察者に知らせないブラインド法で行います。病理学的検査では、前脳、海馬を含む大脳中心部、中脳、小脳、橋、延髄、視神経および網膜を含む眼球、脊髄の頸膨大および腰膨大、脊髄神経節、脊髄神経根、近位の坐骨神経、膝部の脛骨神経、脛骨神経の腓腹筋分岐部および腓腹筋といった、中枢神経から末梢神経に至るまで各所の組織標本を作製して詳細に検査します(写真4)。の種類と作用部位についてお話ししました。現在使用されている殺虫剤は害虫に対する選択性が高くなるよう工夫されていますが、シリーズ1で示した通り神経系の基本構造は全ての動物において類似しているため、哺乳類に対する毒性影響の調査を欠かすことはできません。そこで3回目の今回は、使用者安全および消費者安全のために神経系への毒性を調べる、神経毒性試験についてご説明します。多く用いられています。神経毒性を有する可能性がある化学物質を農薬などとして登録申請する場合に実施しなければならない数多くの試験のうち、神経毒性の評価に特化した試験には、次のものがあります。質の中には、暴露後1〜2週間を経て神経障害を生じる剤があるため、単回経口投与による影響を急性遅発性神経毒性試験で、反復経口投与した場合の影響を28日間反復投与遅発性神経毒性試験で調べます。若い動物やげっ歯類は遅発性神経毒性に対する感受性が低いため、通常ニワトリを用いて試験を行います。主要な評価項目は、歩行状態の観察、血液中の神経毒性標的エステラーゼの測定、神経病理学的検査です。急性遅発性神経毒性試験および28日間反復投与遅発性神経毒性試験急性神経毒性および反復経口投与神経毒性試験神経病理学的検査発達神経毒性詳細な状態の観察機能検査一般財団法人残留農薬研究所 首藤 康文6写真1 詳細な状態の観察観察台(オープンフィールド)触診(ハンドリング)agreeable No.68 October 2023/10ケージ内薬剤の知識薬剤の神経毒性ー神経毒性試験(シリーズ3)
元のページ ../index.html#8