ブックタイトルしろありNo.152

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しろありNo.152

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概要

しろありNo.152

( )しろあり年月はじめにアフリカとアジアの熱帯に広く分布するオオキノコシロアリ属の多くの種は,土製の地上巣(塚)を作ることでよく知られている。これらのシロアリは,塚内部にある多数の菌園上に生育するシロアリタケ属を利用して生活している。シロアリタケの生育には前後の温度と低い二酸化炭素濃度( ?)が必要とされるため),塚内部の温度は外気温の変動によらず一定に保たれており,二酸化炭素濃度はシロアリや菌園が放出する大量の二酸化炭素を一定の速度で排出することで低く抑えられている)。塚を覆うような樹木が少ないアフリカのサバンナでは,塚内部の温度はシロアリと菌園が放出する代謝熱だけでなく塚への直射日光によっても上昇する。サバンナの塚は薄い外壁からなり,その内部には空気が循環する機構や,外部への通気口などが備わっている。サバンナでは,こうした塚の構造によって,塚内部の過剰な熱を外部へと放出し,さらにその結果として塚内部を効率的に換気している)。最近われわれは,直射日光が当たらない比較的“寒い”環境,すなわち樹冠が閉じた熱帯林に分布するスミオオキノコシロアリの塚の構造と内部環境の制御機構の一端を明らかにした)。本稿ではその研究について紹介する。方法タイ東北部のナコンラチャシマ県にあるサケラート環境ステーションの乾燥常緑樹林において,大小合わせての塚を対象に調査を行った。はじめに,塚の外壁から中心部分まで鉄パイプを使って直径約の穴を開け,温度計のプローブを挿入して内部の温度を測定すると同時に,ガス検知管によって内部の二酸化炭素濃度を測定した。測定終了後,塚の半分を壊して断面図を作り,外壁の厚さなどを測定した(図)。最後に塚内の菌園をすべて回収して現存量を求めた。またこれとは別に,林道から森林内への範囲内ですべての塚の高さを測定し,塚高の頻度分布を調べた。結果スミオオキノコシロアリの塚はサバンナのものに比べて厚い外壁からなり,円錐型からドーム型の構造をしていた。塚の各部のサイズや菌園現存量,内部環境は塚高とよく相関しており(図),大きな塚では内部温度と内部二酸化炭素濃度がシロアリタケの生育にほぼ最適な値となっていた。その一方で,小さな塚では内部温度は低く,内部二酸化炭素濃度も高かった。重回帰分析を行ったところ,内部温度は菌園現存量と最も強く相関しており,内部二酸化炭素濃度は壁厚と最も強く相関していた。塚の頻度分布は比較的大きな塚に偏っていた(図)。考察熱帯林という環境下において,スミオオキノコシロアリは厚い壁の塚を作ることによって熱の放出を抑え,内部温度を可能な限り最適に保っていると考えられる。重回帰分析の結果から,大きな塚ほど内部温度が高くなるのは,塚が大きくなることによって増加する外部への熱の放出量よりも,シロアリや研究トピックスタイ東北部のスミオオキノコシロアリの塚の構造と内部環境山田明徳塚内部塚高底面半径水平方向の外壁厚塚内部高垂直方向の外壁厚水平方向の外壁厚底面半径塚高塚外壁図スミオオキノコシロアリの塚の断面図。矢印は塚構造に関する測定箇所を示している。