ブックタイトルしろありNo.154

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しろありNo.154

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概要

しろありNo.154

( )しろあり年月はじめにシロアリによるセルロース消化の仕組みは,シロアリ研究者が追求してきた大きな命題のひとつである。研究者のみならずシロアリ駆除を生業とする方々にも,どうしてこれほどまでにシロアリが木材を分解できるのかという問題に興味をお持ちの方が多いだろう。シロアリが腸内原生生物との共生関係を築くことによってセルロースを消化しているという事象は比較的よく知られているが,現存するシロアリの%以上はこのような共生原生生物を腸内に持ち合わせていない,いわゆる高等シロアリである。これらのシロアリの中にはすでに木材を主食とすることをやめてしまった種も多いが,原生生物の力を借りずに木材を分解している種も少なからず存在している。国内のシロアリでは,八重山諸島に分布するタカサゴシロアリがこの食材性高等シロアリにあたる。本稿ではタカサゴシロアリによるセルロース消化の仕組みについて,私たちのこれまでの研究を概説する。消化管内におけるセルロース分解酵素の分布木材の主成分は植物の二次細胞壁に由来しており,セルロース,ヘミセルロース,リグニンが知られている。このうちセルロースは木材の%を占める成分であり,グルコース(ぶどう糖)を構成単糖としている。したがって,セルロースはシロアリの主な栄養源になっていると考えられる。タカサゴシロアリの唾液腺と消化管抽出物についてセルロース分解活性を測定したところ,唾液腺に約%のグルコシダーゼ(セルロース分解によって生じたセロビオースやセロオリゴ糖をグルコースに分解する酵素)活性が存在し,中腸に約%のセルラーゼ(セルロースを分解する酵素)活性と%程度のグルコシダーゼ活性が存在していた)。一般に下等シロアリでは共生微生物が分布する後腸にも強いセルラーゼ活性が存在しているが) ),タカサゴシロアリの後腸にはセルラーゼ活性がほとんど検出されなかった。このことから,タカサゴシロアリのセルロース消化の場は中腸であることが予測された(図)。セルラーゼの分子生物学では,タカサゴシロアリが持つセルラーゼはどのようなものだろうか?タカサゴシロアリのセルラーゼを精製して調べた結果,カルボキシメチルセルロースに対する比活性は酵素あたりユニットと既知のセルラーゼと比べても際立って高い研究トピックスタカサゴシロアリによるセルロース消化について徳田岳図タカサゴシロアリの消化管。前腸は木片を細かく咀嚼する器官である。組織複合域(中腸組織と後腸組織の複合域。詳しい機能はよくわかっていない)には特定の種類のバクテリアのみが分布し),後腸膨大部には多様なバクテリアと古細菌が共生している。消化管の詳細な構造については,( )を参照していただきたい)。