ブックタイトルしろありNo.156

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しろありNo.156

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しろありNo.156

( 15 )ゼcDNA 配列を決定し,この酵素が共生原生生物の一種から由来することを突き止めた10)。彼の研究で得られた腸内で機能的に働くキシラナーゼは,遺伝子解析のみに基づいてシロアリで頻繁に得られるキシラナーゼとは異なるグループに属するものであり(図3),ある意味,最近流行の網羅的な遺伝子解析に一石を投じる結果であった。 学生に与える研究テーマは多くの場合直接シロアリの木材消化には関係しないのだが,間接的には関係しているものが多い。たとえば修士課程を修了した院生の一人には,農業生物資源研究所の渡辺さんとの共同研究としてゴキブリ細胞内共生細菌ブラタバクテリウム(図4)の単離・精製とゲノムサイズの同定に挑戦してもらった11)。ブラタバクテリウムは宿主が窒素分に乏しい餌を食べているときに,脂肪体内の尿酸を溶かしだして宿主に窒素源として供給していると長らく考えられてきた。同じ細菌は最も原始的なシロアリである,ムカシシロアリにも共生している。ただ,ムカシシロアリはオーストラリア北部のみに分布しており採集が容易ではないので,この院生には手始めとしてシロアリ同様木材を主食としているオオゴキブリを材料にしてもらった。結果として脂肪体組織内に分布する細胞内共生細菌の精製はかなりの困難を極めた。また,苦労の末に共生細菌のDNAを精製した後,当時最新鋭だった次世代DNA シーケンサーによるシーケンスを委託したのだが,私たちも委託先も未熟であったため,図4 オオゴキブリの脂肪体から精製したブラタバクテリウム。ゴキブリ以外にムカシシロアリ(Mastotermes darwiniensis)の脂肪体細胞内にも共生している。宿主にとって必要不可欠な細菌で,宿主の細胞の外では生きていくことができない。図3 イエシロアリキシラナーゼのアミノ酸配列に基づいた系統関係。イエシロアリより精製されたキシラナーゼは独特なクラスターを形成しており,シロアリ後腸の網羅的遺伝子解析によって得られたキシラナーゼは近縁なキシラナーゼの中に入ってこない。図に示すキシラナーゼは糖質加水分解酵素ファミリー11に属しており,シロアリ後腸の遺伝子解析によって得られるキシラナーゼはファミリー10に属するものが多い。