ブックタイトルしろありNo.156

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しろありNo.156

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概要

しろありNo.156

( 26 )シロアリの兵隊において,ジテルペン合成に関わる遺伝子を探索してきた1,22)。しかしこれまでの研究では,ジテルペン合成経路に関わる一部の酵素が特定されたのみである。現在著者らは,次世代シークエンサーを用いて,タカサゴシロアリの兵隊の額腺で発現する遺伝子を網羅的に解析しており,その中にジテルペン合成に関わる各種酵素の遺伝子が含まれているのではないかと期待している。シロアリにおけるジテルペン合成経路の全容解明が行われるのも時間の問題かもしれない。6. おわりに 日本においては木造家屋を食い荒らす害虫としての悪いイメージがあるシロアリであるが,熱帯森林地域においては朽木や落ち葉などの植物遺体を食べる分解者として生態系に重要な役割を果たしている23)。しかしシロアリが生活している朽木中や土壌中には,シロアリを餌とする様々な昆虫類(特にアリ類)や小動物も潜んでいる。またシロアリの現存量が多い熱帯地域では,シロアリ同士のニッチを巡る競争も激しく生じてきたであろう。このような環境におけるシロアリの繁栄には,社会性の進化において獲得した不妊のカースト,特に兵隊カーストによる防衛方法の進化が重要な鍵を握ってきたと考えられる。 これまで説明したように,現在の兵隊の防衛方法は物理的な方法から化学的な方法まで多岐にわたるが,最も派生的なグループであるテングシロアリ類に見られる,額腺で合成したジテルペンを噴射して防衛する方法が最も進化的であると考えられている24)。実はこの額腺は,兵隊だけでなく羽アリ(成虫)にも見られる種がいることから25),プライマーフェロモンなどの合成に用いられていた器官から進化した可能性も考えられる。では兵隊の額腺はどのように防衛物質の合成器官へと進化したのであろうか?もし,もともと個体間相互作用に関わる化学物質の合成器官として機能していた外分泌腺が,種間相互作用に関わる化学物質の合成器官へと進化してきたのであれば,その経緯を探ることは熱帯生態系の生物間相互作用の成り立ちを理解する上でも重要であり,社会性進化の究極要因の解明にも迫れるのではないだろうか。引用文献1)北條 優・三浦 徹(2006):シロアリ兵隊における防衛物質の合成,しろあり,No.145,3-8.2)竹松葉子(2006):日本産シロアリ類の分類の現状,家屋害虫,28,29-35.3)森本 桂(2000):第1章 シロアリ,?シロアリと防除対策?,シロアリと防除対策編集委員会編,日本しろあり対策協会,東京,pp.1-126.4) 安田いち子・仲宗根幸男・金城一彦・屋我嗣良(2000):琉球諸島および南・北大東島におけるシロアリの形態と分布,昆蟲ニューシリーズ,3,139-156.5)山田明徳(2011):南西諸島とその周辺におけるシロアリの分布,しろあり,No.156,28-35.6)Koshikawa, S., T. Matsumoto and T. Miura(2002):Morphometric changes during soldier differentiation of thedamp-wood termite Hodotermopsis japonica(Isoptera,Termopsidae, Insectes Soc., 49, 245-250.7)鈴木養樹・大村和香子・吉村 剛(2009):シロアリ口器の力学的性質―強度と咬合力測定の試み―,材料, 58, 424-429.8)石川由希(2011):ソルジャーにおける神経改変, ?シロアリの事典(仮題)?,吉村 剛(編),海青社, 大津,印刷中.9)安部琢哉(1989):シロアリの生態 ―熱帯の生態学入門―,東京大学出版会,東京.10)松本忠夫(1983):社会性昆虫の生態 シロアリとアリの生態学,培風館,東京.11)Roux, E. A., M. Roux and J. Korb(2009): Selectionon defensive traits in a sterile caste―caste evolution:a mechanism to overcome life-history trade-offs?, Evol.Dev., 11, 80-87.12) Deligne, J., A. Quennedey and M. S. Blum(1981):Theenemies and defense mechanisms of termites. In:Socialinsects, vol. 2(Hermann, H. R., ed.),Academic Press,New York, pp.1-76.13)Prestwich, G. D.(1979):Chemical defense by termitesoldiers, J. Chem. Ecol., 5, 459-480.14)Prestwich, G. D.(1983):Chemical systematics oftermite exocrine secretions, Ann. Rev. Ecol. Syst., 14,287-311.15)Prestwich, G. D.(1984):Defense mechanisms oftermites, Ann. Rev. Entomol., 29, 201-232.