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しろありNo.156

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概要

しろありNo.156

( 32 )る上に,そのような技術や知識を持つ分類学者は年々減っている。そこで近年,Hebert et al.31,32)によって提唱されたDNA による同定手法(DNA バーコーディング)が普及しつつある。DNA バーコーディングでは,DNA 配列には種内と種間の変異幅が一般的に異なっていることから,分類学者によって記載・同定された標本のDNA 配列と未同定標本のDNA 配列を比較することで種同定を行う。DNA 配列の比較は一般的に系統樹を書くことでなされ,種としてのまとまり具合や種間の離れ具合を検討する。 ヤマトシロアリ属については,Yashiro and Matsuura22)がミトコンドリアのCOII 遺伝子配列を用いて系統樹を作成している。そこで,これに上述のXing etal.21),Li et al.19)らによって得られた配列などを合わせて,系統樹を再構築した(図2)。ただし,上述の理由から図中の種名は確定的なものではないことに注意されたい。この系統樹からは,①台湾島産キアシシロアリ―カンモンシロアリ(R. kanmonensis)の複合グループ,②ミヤタケシロアリ―徳之島産キアシシロアリグループ,③アマミシロアリグループ,④ヤエヤマシロアリ―蘭嶼産キアシシロアリグループ,⑤オキナワシロアリグループ,⑥ヤマトシロアリ種群(R. speratus)グループに分けられること,さらに⑥は⑦と⑧の2つのサブグループに分けられることが示された。 系統樹内での配列のまとまり具合と採集地から判断して,②に含まれる徳之島産キアシシロアリ(AB050708)21)はミヤタケシロアリのことではないかと思われる。④ の蘭嶼産キアシシロアリ(EU627782,EU627783)19)については,Takematsu7)が?台北市と蘭嶼の“キアシシロアリ”は別種であり,台北市のものが本当のキアシシロアリである?と記述していることから,ヤエヤマシロアリのことではないかと思われる(ただし,もしヤエヤマシロアリ(EF016102)22)が間違って同定されていた場合,別の種が両島に分布していることになる)。 ヤマトシロアリ種群(系統樹内の⑥)については,北海道にはヤマトシロアリ(R. speratus speratus)が,韓国と九州にはヤマトシロアリ九州亜種(R. speratuskyushuensis)が,そして四国にはヤマトシロアリ中四国亜種(R. speratus leptolabiralis)が分布するとされているので7),⑦がヤマトシロアリ,⑧がヤマトシロアリ九州亜種とヤマトシロアリ中四国亜種を示しているだろう。ヤマトシロアリ九州亜種と中四国亜種は系統的にはっきりと分かれていないが,ヤマトシロアリ中四国亜種については,ミトコンドリアのCOII とCOIII 遺伝子配列を解析したPark et al.36)も系統的な位置づけが不明瞭だと言っている。 イエシロアリは約300年前に中国から日本へ持ち込まれた外来種であると長い間考えられてきたが37,38),少なくとも南西諸島には大陸中国や台湾と陸続きだった頃から分布していたのではないかとする報告もある39)。Ikehara1 ~ 5)や安田ら8,10)によれば,イエシロアリは海洋島である南北大東島を除く全域で採集されている。ただし,このシロアリは貿易船などによって北米に移入された経緯もあり40),仮に南北大東島にはもともと分布していなかったとしても,遅かれ早かれ移入される可能性がある。また,Takematsu and Yamaoka41)は与那国島と九州の福岡県からコウシュンイエシロアリ(C. guangzhouensis)の分布を報告しているが,後にイエシロアリと同一種とされている11)。5. シロアリ科 シロアリ科のシロアリは熱帯地域を中心に分布する。台湾と中国にはより多くの種が分布しており,南西諸島に分布する4種も両地域に分布する。タイワンシロアリの分布域は沖縄島の首里,宮古島,石垣島,西表島,与那国島など1, 5)とされていたが,その後の調査8,10,23)では宮古島と与那国島における分布は確認されていない。また,著者らは石垣・西表島と宮古島の間に位置する多良間島においても調査を行ったが発見されなかった23)。沖縄島における詳細な分布については安田ら8),山田23)を参照されたい。また,少なくとも今のところタイワンシロアリが八重山諸島と沖縄島という隔離分布をする理由については,山田23)によって議論されているのでここでは触れないこととする。 タカサゴシロアリは八重山諸島以南に分布し,Garcia et al.16,17)は石垣島,黒島,西表島,波照間島などから採集している。Ikehara5)は与那国島からも採集しているが,Garcia et al.16,17)や安田ら8,10),著者らのその後の調査では見つかっていない。ニトベシロアリとムシャシロアリも八重山諸島以南にのみ分布し,石垣島と西表島で採集されている1,5,14,42)。