ブックタイトルしろありNo.158

ページ
34/50

このページは しろありNo.158 の電子ブックに掲載されている34ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

しろありNo.158

ブックを読む

Flash版でブックを開く

概要

しろありNo.158

( 31 )高い値が得られた。波長650 nm における光照射範囲存在率は,照射時間の増加とともにやや減少したが,イエシロアリでの結果と同様,照射時間の違いによる有意差は認められなかった(p>0.05)。この結果から,ヤマトシロアリもイエシロアリと同様,赤色光に対する反応性が弱いことが確認された。 一方,波長の減少とともに光照射範囲存在率は低くなり,特に紫外域となる波長400 nm 以下では,照射時間30秒で平均存在率が約16 % まで低下したことから,ヤマトシロアリが紫外光に対して迅速に反応し,明瞭な負の走光性を示すことが明らかとなった。なお,すべての波長域において照射時間の延長とともに光照射範囲存在率が低くなる傾向が見られたが,この傾向も波長400 nm 以下では特に顕著であった。 Maekawa et al. (2008) はヤマトシロアリの3齢幼虫以上で複眼の発達が見られることを明らかにしており,若齢幼虫からニンフを経て有翅虫(第1次生殖虫)やnymphoid(第2次生殖虫)へと分化する有翅系統と,職蟻を経て兵蟻やergatoid(第3次生殖虫)へと分化する無翅系統とで複眼の発達度が異なり,前者の有翅系統の方が複眼の発達度が顕著であることを報告している。今回用いたヤマトシロアリの職蟻には,正確には有翅系統のニンフが含まれており,ニンフの存在率はコロニーで大きく異なり,20 % 以上の場合もある(Kitade et al., 2010)。 また,ヤマトシロアリ属は紫外線感受性アルカロイドであるノルハルマンを有しているが,イエシロアリには存在しない(Itakura et al. , 2008)。以上のことから,紫外光に対するコロニー集団としてのヤマトシロアリの走光性とイエシロアリの走光性との結果の違いについては,両種の兵蟻やニンフの混在率の違いの影響,あるいはノルハルマンの内在の有無等が影響した可能性があると考えられる。参考文献1)Itakura, S., S. Kawabata, H. Tanaka and A. Enoki (2008)Effect of norharmane in vitro on juvenile hormone epoxidehydrolase activity in the lower termite, Reticulitermessperatus, J. Insect Sci. 8(13): 1-11.2)Kitade, O., H. Miyata, M. Hoshi and Y. Hayashi (2010)Sex ratios and caste compositions in fi eld colonies of thetermite Reticulitermes speratus in eastern Japan. Sociobiol.55(2): 379-386.3)Maekawa, K. , S. Mizuno, S. Koshikawa and T. Miura(2008) Compound eye development during castedifferentiation in the termite Reticulitermes speratus(Isoptera: Rhinotermitidae), Zool. Sci. 25: 699-705.4)大村和香子・片岡 厚・木口 実 (2009) イエシロアリの走光性に及ぼす波長の影響, 環動昆, 20(4):185-190.5)大村和香子・片岡 厚・木口 実 (2011) ヤマトシロアリの走光性に及ぼす波長の影響, 環動昆, 22(4):185-190.(森林総合研究所)図4 異なる波長におけるヤマトシロアリの光照射範囲存在率(%)(光量子束密度:60 μmol/m2/s 一定)