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しろありNo.160

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しろありNo.160

Termi te Journal 2013.7 No.160 7報 文Reports1.動物細胞RNA干渉実験 動物細胞でのRNA干渉(RNA interference)の事例が, 1984年に初めて報告された1)。この論文では, アンチセンスDNA鎖の転写産物(mRNAの相補RNA)を発現させたマウス細胞で, 標的遺伝子であるチミジンキナーゼのmRNA転写量が4分の1に減少し, さらにこのmRNAの翻訳タンパク質量も減少することが示された。1998年に, 遺伝学的研究に使われるモデル生物であるセンチュウ2)とキイロショウジョウバエ3)でRNA干渉が観察され, さらにセンチュウではRNA干渉の効果が子孫にまで伝搬することが報告された。1細胞あたり30個のRNA分子があれば遺伝子の発現が十分に抑制されること, また1本鎖RNAよりも2本鎖RNAを投与した方が高い抑制効果が得られることも報告された。これらの論文で, RNA干渉が遺伝子の発現を簡単に抑制できることが明らかになり, これ以降多くの生物でRNA干渉を利用した成果が報告された。RNA干渉は真核細胞あるいは真核生物に特異的な機構であり, 外来ウィルスに対する防御機構として存在するとの仮説や, 遺伝子発現制御への関与が示唆されている。 昆虫では, キイロショウジョウバエ3), ミバエ4), ネッタイシマカ5)など双翅目, タバコスズメガ6), アメリカタバコガ7), マツマダラメイガ8) , ヨトウガ9)など鱗翅目, ミツバチ10)など膜翅目, コクヌストモドキ11), ネキリムシ12), ナミテントウ13) , コロラドハムシ14)など鞘翅目, モモアカアブラムシ15) , トビイロウンカ16)など半翅目, コオロギ17)など直翅目,ワモンゴキブリ18), シロアリ19, 20)など網翅目でRNA干渉による遺伝子発現の抑制が報告されている。2.RNA干渉の応答機構 RNA干渉の応答機構には, 内在性RNA干渉(autonomous RNAi), 全身浸透RNA干渉(systemicRNAi)および周囲RNA干渉(environmental RNAi)の3種類が知られている21)。dsRNAを取り込んだ細RNA干渉技術を用いたシロアリ駆除の可能性近畿大学農学部応用生命化学科 板倉 修司胞だけでなくその周囲の細胞にもRNA干渉抑制シグナルが伝達される機構が全身浸透RNA干渉, また腸や血体腔に接している細胞だけにRNA干渉抑制シグナルが取り込まれる機構が周囲RNA干渉に相当する。上述したセンチュウのケースが全身浸透RNA干渉の例としてあげられる。シロアリなど昆虫での大部分の事例は周囲RNA干渉によるものと考えられる。もともと細胞に備わった機構が内在性RNA干渉である。3.dsRNAの投与方法 内在性RNA干渉以外では, 外部からRNAを投与する必要がある。上述したように1本鎖RNAよりも2本鎖RNAの抑制効果が高いため, RNA干渉実験では2 本鎖RNA(double-stranded RNA;dsRNA) が投与される。投与方法には, 対象の個体ごとにdsRNA水溶液をマイクロインジェクターなどで注入する注入(microinjection)法, dsRNAを添加した餌を食べさせる摂食(feeding)法, dsRNAを溶解した水溶液に対象生物を漬ける浸漬(soaking)法, ならびにdsRNA水溶液を対象生物にスプレーする散布(spraying)法が知られている。4.dsRNAの調製方法 dsRNAを調製するには, T7 RNAポリメラーゼを利用した酵素合成法のほかに化学合成法が利用される。酵素合成法向けに, CUGAR in vitro Transcription Kit(ニッポン・ジーン㈱)やin vitro Transcription T7Kit for siRNA Synthesis(タカラバイオ㈱)など試薬メーカーから様々なキットが発売されている。また,dsRNAの化学合成も, 北海道システム・サイエンス㈱,ライフテクノロジー・ジャパン㈱など多くの会社が受注生産を行っている。ここにあげた酵素合成法と化学合成法は, 研究室レベルで使用する場合には利用しやすい価格設定になっているが, 昆虫の駆除を目的としたフィールドテストを行うには実用的な価格とはいえない。実用化を念頭に置くと, 遺伝子組み換え技術の