ブックタイトルしろありNo.160

ページ
11/52

このページは しろありNo.160 の電子ブックに掲載されている11ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

しろありNo.160

ブックを読む

Flash版でブックを開く

概要

しろありNo.160

8 T e r m i t e J o u r n a l 2 0 1 3 . 7 N o . 1 6 0利用が有望な候補としてあげられる。たとえば,dsRNA分解酵素であるRNase IIIを欠損させた大腸菌HT115(DE3)株とマルチクローニングサイトの両端にT7RNAポリメラーゼ認識配列をもつL4440プラスミド(http://www.addgene.org/1654/)を用いて, 目的とするdsRNAを大量に発現させる手法が考えられる。IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド,Isopropyl β-thiogalactopyranoside)の誘導により, 大腸菌HT115(DE3)株に組み込まれたL4440プラスミドの両方向からT7 RNAポリメラーゼがはたらき, あらかじめプラスミド中のマルチクローニングサイトに挿入した標的配列DNAのセンス鎖RNAとアンチセンス鎖RNAが同時に合成される。これらのセンス鎖R NAとアンチセンス鎖RNAは, 宿主大腸菌の中でdsRNAとして存在する。ただし, これら大腸菌とプラスミドの商業的利用が可能かどうか, あるいは可能だとしてライセンス料が高額になるのではないかという懸念が残る。また, 宿主大腸菌であるHT115(DE3)株の染色体にはT7 RNAポリメラーゼ遺伝子が組み込まれているので宿主大腸菌自体も遺伝子組み換え生物に相当する。当然ではあるが上述の標的配列DNAを挿入したプラスミドを組み込んだHT115(DE3)株(dsRNA調製用)やDH5α株(プラスミド増幅用)大腸菌も遺伝子組み換え生物に相当する。遺伝子組み換え生物の取り扱いは, 日本国内では「遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)により規制されており, 環境中に放出するには非常に高いハードルを越えなければならず, 現実的にはほぼ不可能に近いと思われる。このため, 標的配列DNA挿入プラスミドを組み込んだ大腸菌を大量培養し, さらに標的とするdsRNAを誘導したのちに, 物理的(熱, 紫外線のような電磁波など),化学的(酸, アルカリ, 抗生物質など)あるいは生物学的(酵素, ファージなど)手法により宿主大腸菌を不活化し, 環境中に安全に放出できる技術の開発が必要となる。5.シロアリでのRNA干渉実験5.1  短鎖RNAによるヤマトシロアリのヘキサメリン遺伝子の抑制22) 幼若ホルモン結合タンパク質の1つであるヘキサメリンを標的とした21塩基長からなる短鎖二本鎖RNA(small interfering RNA; siRNA)を用いて, ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)のヘキサメリン遺伝子の発現抑制実験を行った。siRNA標的配列は, ヤマトシロアリのヘキサメリン遺伝子配列(accessionNo. AB371986)をもとに, siRNA Target DesignerProgram(http://www.promega.com/siRNADesigner/program/)を用いて設計した。このsiRNA標的DNA配列(2273 - 2291 nt, 5’-gaagtaagcaccatgtttc-3’の各19ntの3’末端にttを付加した21 nt)をもつsiRNAを, invitro Transcription T7 Kit for siRNA synthesis(タカラバイオ㈱)を用いて調製した。得られたsiRNA水溶液(0.22 μg/μL) を, Nanoject II Auto-NanoliterInjector(Drummond Scientific Company, USA)を用いて, 0.5 ng(2.3 nL)ずつシロアリの胸部側面に注入した(図1)。コントロールとして, 職蟻あるいはニンフに同体積の超純水(2.3 nL)を同様に注入した。注入処理を施した職蟻15頭あるいはニンフ15頭を, 湿らせたろ紙を敷いたシャーレ(直径90mm)で, 30日間飼育した。飼育期間中の死虫率と幼形生殖虫の出現状況を毎日観察した。また, RNAを注入した職蟻あるいはニンフを1, 2, 4, 8, 9日目に解剖し, トータルRNA抽出ならびにcDNA合成を行った。cDNAの定量のためのqRT-PCRには, Step One PlusR Real-Time PCRSystem(ライフテクノロジー・ジャパン㈱)およびGo TaqR 2-Step RT-qPCR System(プロメガ㈱)を用いた。対照遺伝子としてヤマトシロアリのNADH-デヒドロゲナーゼ(accession No. BQ788175)を用いた。 siRNA注入により, 職蟻ではヘキサメリンの抑制が観察されたが, ニンフではヘキサメリン遺伝子の発現量が1日後に一旦減少した後に著しく増大した。このとき, ニンフからニンフ型幼形生殖虫への分化が促進された。ニンフにおいては, ヘキサメリン遺伝子発現量の増大とニンフ型幼形生殖虫への分化との関連が示図1 ヤマトシロアリへのRNA注入