ブックタイトルしろありNo.162

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概要

しろありNo.162

26 T e r m i t e J o u r n a l 2 0 1 4 . 7 N o . 1 6 2た。さらに, 酵素活性の点から両者を比較した場合にも, P. chrysosporium由来のBGLによるセロビオース加水分解のKm値が, 同菌由来のCDHによるセロビオース酸化のKm値と比較して約80倍以上高いことから, BGLと比較してCDHのセロビオースへの親和性が圧倒的に高いことが知られている。これらのことは,CDHによるセロビオース酸化経路がBGLの加水分解経路よりも優位であることを強く示唆している。 では, 本酵素が一連のセルロース分解系の中でどのような枠割を果たしているのだろうか?これまでに白色腐朽菌カワラタケや子のう菌アカパンカビなどを対象としてCDH欠損株が作出されており, それらの組換え株はグルコース培地での生育は変化しないものの,セルロース培地上での生育が抑制されたことや, その酵素液を用いた場合, 野生株と比較してセルロースの糖化能力が大きく低下したこと, そして, その粗酵素液にCDHを人工的に加えると糖化能力が野生株と同等まで回復することが報告されている8, 9)。したがって, CDHはセロビオース代謝というよりもむしろセルロースの分解に関与している可能性が高いと考えられる。セルロースの分解産物であるセロビオースを酸化することがどのようなメカニズムで分解に寄与するのかといった点については, 主要なセルラーゼであるセロビオヒドロラーゼIの生成物阻害を解除しているといった説10)や, 多糖モノオキシゲナーゼ(後述)との相互作用に寄与するといった説9)などが提唱されているものの, その詳細は不明である。4. 多糖モノオキシゲナーゼの発見と当該酵素の生理的役割 「1 はじめに」で述べたように, 近年, 真菌類のセルロース分解系における酸化還元反応の重要性が大きな注目を浴びてきているが, その契機となったのが多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)の発見である。本酵素は元々は極めて微弱な活性を有するセルラーゼであると考えられてきたものであったが, 最近になって,セルロースを酸化的に低分子化させる能力を有する銅依存性のモノオキシゲナーゼであることが明らかとなった。本酵素の発見は多くのセルロース分解研究者の興味を集め, 発見以来, 短期間の間に生化学的研究から三次元構造解析まで様々な報告が為されてきているが11), それでもなお, 触媒メカニズムの詳細については未知の点が多い。とはいえ, 本酵素がセルロース分子鎖を酸化的に開裂することを示す多くの証拠が見つかっており, 糸状菌のセルロース分解にLPMOを介した酸化的分解経路が存在する可能性は極めて高いと思われる。また, 本酵素は単独で非晶性セルロースを低分子化させることが報告されているのみならず, セルラーゼによる結晶性セルロースの分解効率を飛躍的に促進させることも明らかになっており12), セルラーゼとの相乗作用を通じてセルロース分解に寄与していると考えられている。 ところで, LPMOがセルロースの酸化的低分子化反応を触媒する際には, LPMOへの電子の供給, すなわちLPMO内の銅原子の還元が不可欠であることが知られている。したがって, 多くの研究では還元剤であるアスコルビン酸や還元型グルタチオンなどが電子供与体として利用されているが, 興味深いことに, CDHも電子供与体として機能する可能性が示唆されている。事実, 多くの研究において, LPMO単独でセルロースの糖化試験を行った場合にはLPMOの活性はほとんど検出されないものの, そこにCDHを添加することによって,明確なLPMO活性, すなわちセルロースの低分子化が検出されている。このことは, CDHによりセロビオースから取り出された電子がヘムドメインを介してLPMOへと電子伝達されることを示唆するものである。とはいうものの, これはあくまでin vitroで観察された現象であり, CDHがLPMOの生理的電子供与体であることを示すデータはこれまでのところ報告されていない。したがって, 現時点ではCDHとLPMO間の生理的相互作用の存在はあくまで仮説の一つと考えるのが妥当であろう。5. セルロース分解への関与が予想される新規酸化還元酵素およびタンパク質 これまで述べてきたように, 糸状菌のセルロース分解系ではセルラーゼによる加水分解反応に加えて, 酸化還元反応が関与していることは間違いないように思われる。このような観点から, 我々のグループではセルロース分解に関与すると予想される未知の酸化還元酵素やタンパク質を見いだすべく, 糸状菌の全ゲノムデータを利用した探索を行ってきた。その結果, これまでにいくつかの新規酵素やタンパク質を見いだし,機能解析を行ってきたのでここで簡単に紹介させて頂く。 我々は新規酵素やタンパク質を探索する為の手がかりとして, CDHのヘムドメインに注目した。上述のとおり, CDHのヘムドメインはフラビンドメインから電