ブックタイトルしろありNo.162

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概要

しろありNo.162

Termi te Journal 2014.7 No.162 35研究トピックスResearch TopicsX線CTを用いたアメリカカンザイシロアリの巣-坑道システムの解析京都大学生存圏研究所 S. Khoirul Himmi1. はじめに シロアリの巣は, その洗練された構造と機能性から,動物の造る構築物として最も驚くべきものの一つである。シロアリにおける巣の構築は, その社会性の進化と生活史に深く関係する採餌生態と密接に結びついており1), 巣の複雑な構造は, いわゆるスティグマティクな労働2)と整然とした組織体制3)を示すものである。これまで, シロアリの巣システムと生態に関する研究の多くは, “中間型”あるいは“セパレート型” の採餌生態を持つ種類を対象としており3, 4),“ ワンピース型”の種に関するものはほとんどない5)。特に, “ワンピース型”種の巣-坑道システムの構築に関する報告は現在までのところ全くない。 本報告では, X線CTを用いたアメリカカンザイシロアリ(Incisitermes minor(Hagen))の巣-坑道システム構築の解析に関する予備的な研究結果について紹介する。2. 試料と方法 和歌山県の被害住宅よりアメリカカンザイシロアリが加害中の小径丸太材(長さ2,000mm, 直径60mm)を採取し, 8個の小試験体に分割した。それぞれの試験体について, 九州国立博物館所有の文化財用大型X線CT装置(Y. CT Modular, YXLON InternationalGmBH, Germany) によるスキャニングを行った。デジタルデータ厚さは1mm, ピクセル数は1024×1024,1mm当たりの2D画像数は3.17である。得られた2D画像を, 画像解析ソフトウエア(VGStudio MAX 2.1,Volume Graphics GmbH, Germany)を用いて再構築し, その後の解析に供した。3. 結果と考察 巣-坑道システムの構造というものは, 行動パターンの外形的表現あるいは集団行動のあらわれとして重要な生物学的意味を有している6)。図1にスキャニングにより得られた2Dおよび3D画像の例を示す。この画像から, アメリカカンザイシロアリの巣-坑道システムがチャンバー型坑道とトンネル型坑道から構成されていることが明瞭に観察される。 トンネル型坑道は, 平均直径2mmの円筒状の通路であり(図1c), 年輪の春材部分に木材の繊維方向に沿って構築されていた(図1a)。一方, チャンバー型坑道は図1bと1cに示されているように, 春材と夏材の両方にまたがる広い部屋であり, しばしば複数の年輪を越えて構築されていた。このチャンバー坑道は個体の集合場所としての特別な場所である。 巣の構造というものは, コロニーによる坑道の掘削,組織化, そして拡大の結果生じるものである。本研究では2つのタイプの採餌行動が観察された。すなわち,個体としての採餌行動と集団的な採餌行動である。個体の採餌行動は, トンネル型坑道の掘削として表現される。材内の通路は直径2mmと非常に狭く, 1頭のシロアリが通行できるだけである。ある特別な部位の春材におけるトンネル型坑道の掘削は, 例えば餌資源7)や栄養生態8)のような採餌効率9)を維持するための環境要因によって決定されるのかもしれない。集団的な採餌行動は多くの個体の協調的活動によって行われるものであり, チャンバー型坑道の拡大につながる。この行動ではエネルギー資源の集中的な利用が行われることになり, 複数の年輪を越えた, 春材と夏材をまたぐチャンバーの拡大につながることになる。 被害材内部のCT画像解析から, アメリカカンザイシロアリがその採餌活動と巣-坑道システム構築において組織学的な選択性を持つことが明瞭に示された。巣と坑道の掘削行動は, 個体の採餌行動と集団的な採餌行動の両者における環境反応の複雑さを示している。4. 謝辞 本研究の実施にあたっては九州国立博物館の今津節生博士および奈良国立博物館の鳥越俊行氏の協力を得た。記して謝意を表する。