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概要

しろありNo.163

Termi te Journal 2015.1 No.163 171.はじめに ミツバチやアリ, シロアリなどに代表される社会性昆虫には, もっぱら生殖活動のみを行う生殖カースト(いわゆる女王や王)と, 自らは繁殖を行わず利他的な行動を行う非生殖カースト(いわゆるワーカーやソルジャー)が存在する。生殖分業と呼ばれる上記のシステムは社会性昆虫を特徴づける第一の性質であり, 多くの人々を惹きつけてきた。生殖・非生殖カースト間の形態や行動, 近年では遺伝子やその発現パターンなどを比較して生殖虫特異的な現象を見つけ, その現象の生じる要因を探求することは, 生殖分業の進化や維持の要因を明らかにするための重要な情報を提供し続けている。本稿では, 筆者らのグループが取り組んだ,シロアリの女王や王に特徴的にみられる触角短縮現象とその要因, そしてその意味についての考察を紹介する1)。2.生殖虫特異的な触角短縮現象 触角短縮現象は群飛前あるいは群飛直後の翅アリと比べて, 野外コロニーで採集される女王や王の触角が明瞭に短くなる現象である(図1)。この現象の発見自体は古く1903年にはすでに報告されていた2)。また,いくつかの先行研究はこの現象が, 翅アリペアが翅を落とし新しいコロニーをスタートさせた後の数日中,すなわちコロニー創設のごく初期に生じることを報告していた2, 3)。上記のような触角短縮の生じるタイミングと生殖虫の繁殖活動の開始時期の符号は , シロアリの生殖システムにおける重要な“何か”を予感させる。しかし, この現象は2011年にC. A. Nalepaらの研究グループがシロアリの多くの科で見つかることを報告する4)までほとんど注目されておらず, 触角短縮の至近的(直接的)要因の詳細や適応的意義の十分な考察はなされていないままだった。そこで筆者らは, 日本に生息しかつ触角減少率の高いレイビシロアリ科に属するコウシュンシロアリを材料として, この現象の解明に乗り出した。3.直接要因は何か? 触角短縮の直接的な要因を推測すると, 大別して, 生殖虫自身や他のコロニーメンバーもしくはコロニー内に生息するシロアリ以外の生物による触角の噛み切りなどの恣意的な要因と, 事故や狭い空間での生活による自然摩耗といった自然要因の2つが思い当たる。筆者らが電子顕微鏡を用いて女王や王の短くなった触角先シロアリの女王や王に見られる触角短縮現象日本学術振興会特別研究員(京都大学農学研究科昆虫生態学研究室) 宮国 泰史図1 コウシュンシロアリの翅アリ(左)と生殖虫(右)の頭部写真研究トピックスResearch Topics