ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

しろありNo.163

Termi te Journal 2015.1 No.163 19① シロアリを単独で飼育した場合にも触角短縮は生じる。② シロアリが自身の触角を噛み切る場合, 自分の大顎は自分の触角の根元までは届かない。すなわち,触角節数の自切限界が存在し, ①で短くなったシロアリの触角節数はこの自切限界以上に短くならない。 上記の2要素が成立するかを検証するため, 筆者はまず②の自切限界について20個体の翅アリの触角をシロアリの頭部に沿って這わせ, 根元から大顎中心までの触角節数を計測した。その結果, 大顎までの触角節数は平均値で11.65±0.93 [SD], 最小値は10節, 最大値13節だった。筆者はここで示された触角の10 ~ 13節の翅アリの自切限界領域として考えた。次に①を検討するため, 初期生殖虫(脱翅した翅アリ)を単独で飼育する実験を研究室で行い, 日数変化に伴う初期生殖虫の触角節数の変化を記録した。その結果, 単独飼育においても初期生殖虫の触角は短くなり, また, その触角節数は上述した自切限界より短くなることはなく, 分布のピークも自切限界領域内に収まることが明らかになり(図3), 触角短縮が生殖虫自身による自切であることが裏付けられた。その後, 筆者は野外で採集された女王や王の触角節数についても, 分布のピークが自切限界領域に収まることを確認した。5.コロニー創設に依存しない触角短縮の発見 上述までの研究で, 筆者らのグループは生殖虫に見られる触角短縮現象の至近的要因が生殖虫自身による自切であることを明らかにした。しかし, 多くの人が知りたいのは, この現象の適応的意義, 擬人的な表現をするなら生殖虫は何のために自分の触角を噛み切るのか?ということである。この点について先行研究では, コロニー創設の極初期に触角の短縮が生じることから, この現象がコロニー創設に関連する行動であると考えていた。ところが, 筆者らのグループはこの仮説に疑義を抱く研究結果を得た。 シロアリではコロニーを創設した一次生殖虫の死後や消失後に, 残存するコロニーメンバーの中から二次生殖虫が生産されコロニーを引き継ぐ現象が広くみられる5)。したがって, 二次生殖虫はコロニー創設を経験しない。筆者らが研究材料にしているコウシュンシロアリには二次生殖虫の1種で, 翅アリがコロニー内で脱翅して生殖活動を行う成虫型二次生殖虫というカーストが存在していた。筆者らが調査したところ,この成虫型二次生殖虫にも野外女王や王と同程度の触角短縮が確認された(筆者, 未発表データ)。この結果から, 筆者らは触角短縮現象がコロニー創設に関わる行動ではなく, よりシンプルに, シロアリが非生殖フェーズから生殖フェーズに移行する際に重要な現象ではないかと考えている。図4  生殖虫によるフェロモンを用いた他個体の繁殖抑制と生殖虫の触角短縮の関係解説図