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概要

しろありNo.163

20 T e r m i t e J o u r n a l 2 0 1 5 . 1 N o . 1 6 36.鈍くなることはいいことだ? 上述のように, 生殖虫の触角短縮がシロアリの生殖フェーズの移行に際して重要な現象ならば, それはどのような場面でどのような意義を持って発揮されるのだろうか?筆者は, この研究がシロアリの生殖分業システムが抱える大きな矛盾点を解消する可能性があると考えている。 シロアリでは女王や王がコロニーで唯一の生殖カーストであり, 他のコロニーメンバーの繁殖活動は, 女王や王の放出するフェロモンによって抑制されることが知られている6, 7)(図4)。そのため, 女王や王をコロニーから取り除いたり, 反対にコロニーメンバーを女王や王から引き離すなど, 抑制フェロモンの効果がなくなるとコロニーメンバーの繁殖活動は活性化する。さて, ここで女王や王の存在するコロニーにおける, ある翅アリ達の状況を擬人的な表現を織り交ぜながら下記のように想像してみる。 この翅アリ達は, 自分の適応度を高めるために繁殖を行いたいが, 女王や王のフェロモンを受ける状況下ではそれは抑制されてしまう。そこで, ある翅アリは抑制フェロモンの影響を逃れるため元のコロニーから旅立ち, 一次生殖虫として自ら新しいコロニーを創設して繁殖活動を開始した。また, 別の翅アリはコロニーから旅立つ前に女王や王が死亡したためフェロモンの抑制がなくなり, 二次生殖虫として元のコロニー内で繁殖活動を開始することができた。そして, これら生殖虫となった元翅アリは, 元のコロニーの女王や王と同じように他のコロニーメンバーの繁殖を抑制するため, 抑制フェロモンを放出し始めた。その結果, この元翅アリは女王や王としてコロニーで唯一の繁殖カーストの地位を確立した。 上述の物語はシロアリで一般的に考えられている生活史であるが, とても重大な矛盾点が内包されている。なぜ, 元翅アリである生殖虫の繁殖活動は, 自身の放出する抑制フェロモンによって抑制されないのだろうか?翅アリだった頃, 彼らの繁殖活動はフェロモンによって抑制されたにもかかわらず(図4)。シロアリの生殖虫に生じている触角短縮は, この矛盾点を次のように説明できる。触角は外部からの物理的・化学的な刺激を受容する鋭敏なセンサーである8)。したがって, 触角が短くなるということは, フェロモンを含めた様々な刺激に対して鈍くなることを意味するだろう。上述の物語において, 生殖虫となった元翅アリは自らの触角を噛み切ることで自身の化学物質感受性を低下させる。この行動は自身の分泌する抑制フェロモンの自分自身に対する効果を減少させ, フェロモンの主要な効果を他のメンバーの繁殖抑制に限定できることかもしれない。これこそがシロアリの触角短縮の適応的意義であると筆者は考えている。「うまくいく秘訣は鈍くなること」という我々の肩の力みを抜いてくれるような真理が存在するのか, 筆者は今後も研究していきたい。引用文献1) Miyaguni, Y., K.Sugio, K.Tsuji (2013) : Antennalcropping in the Asian dry-wood termite, Neotermeskoshunensis, Insect. Soc., 60, 223- 229.2) Heath, H. (1903) : The habits of Californiatermites, Biol. Bull., 4, 47?63.3) Costa-Leonardo A.M., R.C. Barsotti (1998) :Swarming and incipient colonies of Coptotermeshavilandi (Isoptera, Rhinotermitidae), Sociobiology,31, 131-142.4) Nalepa, C.A., T.A. Evans, M. Lenz (2011) :Antennal cropping during colony foundation intermites, ZooKeys, 148, 185?196.5) Myles, T.G. (1999) : Review of secondaryreproduction in termites (Insecta: Isoptera) withcomments on its role in termite ecology and socialevolution, Sociobiology, 33, 1-91.6) L u s c h e r M . ( 1 9 6 1 ) : S o c i a l c o n t r o l o fpolymorphism in termites, Roy. Entomol. Soc.Lond., 1, 57-67.7) Yamamoto, Y., K. Matsuura (2011) : Queenpheromone regulates egg production in a termite,Biol. Lett., 7, 727-729.8) Prestage, J.J., E.H. Slifer, L.B. Stephens (1963) :Thin-walled sensory pegs on the antenna ofthetermite worker, Reticulitermes flavipes, Ann.Entomol. Soc.Am., 56, 874?878.