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概要

しろありNo.163

24 T e r m i t e J o u r n a l 2 0 1 5 . 1 N o . 1 6 3ロニー特異性があるかどうかを検討した。また全ての分析はR (version 2.15.1)を用いて行った。3.結果 40グループ(8コロニー×5グループ)のうち, 37グループが蟻道形成を行い, 残りの3グループはケースの表面を覆っただけであった。HCAの結果作られた樹形図は蟻道の構造を4つの主要なクラスターに分類した(図1)。被覆面積(ANOVA: F7,31 = 20.88, p< 0.001), 初期蟻道建設速度(ANOVA: F7,31 = 33. 8,p < 0.001; 図2), vstの割合(ANOVA: F7,31 = 12.04,p < 0.001; 図2)のそれぞれの特徴にコロニー間で有意差が見られた(図2)。 13の建設・構造的特徴を含んだPCAにより2つの主成分が明らかになり, それらは全ての分散の65.84%を説明するものであった。第一主成分は47.85%の分散を含み, 蟻道建設の速度と関係する変数(建設開始日, 20日から30日の間に作られたvstの割合等)と強い相関を持っていた。第二主成分は17.99%の分散を含み,構造と関係する変数(被覆面積や0日から10日までの間に作られたvstの割合)と強い相関を持っていた。第一主成分, 第二主成分共にコロニー間で有意に異なり(ANOVA, 第一主成分: F7,31 = 49.89, p < 0.0001;第二主成分: F 7,31 = 63.55, p < 0.0001), 二つの主成分によってコロニーは分けられた(図3)。4.考察 ヤマトシロアリの蟻道建設には, 明確なコロニー特異性がみられた。すなわち, 同じコロニーから分けられたそれぞれのワーカーの集団は同じような建設パターンを示した一方で, 異なるコロニー由来の集団とは異なったパターンを示した(図1, 3)。蟻道形成は,イエシロアリ(Coptotermes formosanus)において材質により影響を受けることが知られている7)。しかしながら今回の実験では, 蟻道形成は同一条件下で行われたため, 蟻道形成におけるコロニー間差は, その時の外的条件により引き起こされたものではない。そのため, 遺伝的要因やコロニーが経験した過去の環境条件,栄養状態の違いが, 建設に携わるワーカーの生理状態に変化を与え, 構造物のコロニー間での違いを生み出したのではないかと考えられる。 今回の研究において, コロニー毎に様々な蟻道建設パターンが見られた。あるコロニーは, 巣から多くの数の蟻道を建設し, またあるコロニーは, 数は少ないが長い蟻道を建設した。更に, 全く蟻道を建設せず, 代わりにケースの底をマット状に覆っただけであるコロニーも見られた。このような建設行動の違いは, 次のような戦略の違いを反映したと考えられる。一つ目は蟻道形成をせず, 歩き回ることによって巣の近くの材を探すというもの。二つ目は蟻道を近いエリアに張り巡らすことによって, 注意深く近くの材を探すというもの。三つ目は長く数少ない蟻道を形成することによって, 粗く広いエリアを探索するというもの。そして, これらの中間的なものもまた考えられる。それぞれの戦略の違いは, コロニーの生息環境における資源の分布に依存して, 重要な適応度の違いをもたらすことが予想される。そのため, 杉林や松林, 住宅街といった異なる環境に生息しているコロニーは, 異なる蟻道建設に関する特徴を持っている可能性がある。 蟻道という全体でのパターンは, どのようなシステムの下位レベル, つまり個体レベルの違いから, 引き起こされたのだろうか。シロアリの蟻道建設では, セメントフェロモンというフェロモンが使われることが知られている2)。このフェロモンは, 材料が建設途中の場所に取り付けられるときに用いられ, さらに他の個体が同じ場所に次の材料を取り付けるよう促す。材料が集まれば集まるほどフェロモンも蓄積し, 多くのワーカーを誘引することとなる。このフェロモンへの感受性の違いが, 相互作用にも変化を及ぼし, 構造物の違いを生み出したのではないだろうか。 これまでの社会性昆虫における自己組織化の研究は,多くの個体を組織化し, 洗練された構造を作り上げるメカニズムを解明することを主眼においていた1)。そのため, その結果作られる構造物の種内変異についてはあまり着目されてこなかった。しかしながら, 行動の進化の謎を解く上では, 種内変異が重要な鍵となる。形成される構造物のコロニー特異性を引き起こすワーカーの性質の違い, そしてコロニー特異性の適応的意義が解明されることによって, 自己組織化システムの適応進化についての理解を深めることが可能になるだろう。5.謝辞 本研究を行うにあたり, 発案から遂行の過程で多大なる指導・助言を頂いた松浦健二教授, また統計解析について, 多くの有益な助言を頂いた小林和也博士に深くお礼申し上げる。