ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

しろありNo.163

26 T e r m i t e J o u r n a l 2 0 1 5 . 1 N o . 1 6 3音響探知によって分かったヤマトシロアリ活動リズムへ及ぼす温度の効果京都大学大学院農学研究科 渕側 太郎1.はじめに 集団で生活するハチやアリといった社会性昆虫は他の多くの生物で見られるのと同じように概日リズム(一日周期で起こる活動の周期性)を備えている。特に社会性昆虫では, 概日リズムがコロニー生活特有の調節を受けていることが報告されており, 非常に興味深い1, 2)。ところで, 洞窟や朽木の中あるいは地下などの恒暗的環境下で生息する生物の活動はしばしばリズムを示さない。例えば, 洞窟性ザリガニの一種Cambaruspellucidusは移動のリズムが見られない3)。また,洞窟性エビの一種Niphargus puteanusもリズムを示さない4)。 シロアリ類において, その活動リズムを計測した研究がこれまでに少数だが行われてきた。砂漠に棲むシュウカクシロアリAnacanthotermes vagansにおいて,ワーカー個体を実験室で観察したときは活動リズムを確認できなかったものの, 野外に彼らのエサになる紙類を設置し, その訪問数を調べると, 一日のうちで変動があり, コロニーとしての採餌行動に日周リズムが見られた5)。また, キノコシロアリMacrotermes bellicosusにおいて, 巣の入り口に光センサーをつけ, シロアリ個体の通過量を一定期間記録したところ日周リズムが見られた6)。このとき同時に巣の中心部(王室)の出入り口にも同様のセンサーを取り付けられ通過量が測定され, そこでも約1日のリズムが見られた6)。このようにシロアリ類でも, その活動に日周リズムが見られることが分かる。しかしながら, 研究がなされたこれらのすべてシロアリは他の社会性昆虫同様に巣の場所と採餌する場所が分かれていて, ワーカーは巣外に採餌に出かけるセパレート型(central-site nesters)と呼ばれるグループに分類される。彼らは巣から蟻道をのばして採餌に行く。一方, ワンピース型(single-sitenesters)に分類されるシロアリ(e.g. オオシロアリ科)は一本の材の中に営巣し, その材のみを餌とする。日本において一般的なヤマトシロアリやイエシロアリは中間型(multiple-site nesters)に分類され, 大きなコロニーでは巣以外の材も餌場とするが, 巣である材も餌場とする。非セパレート型はセパレート型に比べ,巣の外に出る機会が少なく, それだけ採餌の際に環境サイクルから受ける制約が少ないと考えられる。このようなタイプのシロアリにおいて私の知る限り活動リズムは調べられていない。 本研究ではヤマトシロアリの野外コロニーにおける活動の日周リズムの有無を調べるため, 2009年12月から2010年11月にわたる一年間, 代表的な4つの季節に焦点を絞り, 各計測時期について3-5日間連続してその活動量を測定した。活動量の測定は, 新たに確立したシロアリワーカーが食材する音を記録する方法を用いて行った。その結果, 以下の3点が明らかになった。(1)夏, 秋に活動パターンに日周リズムが見られる傾向があった。(2)活動量の変動は時刻ではなく温度でよく説明された。(3)温度と活動量の関係は季節によって異なった。また, 季節間における温度と活動量の関係が違いは最適温度仮説によって説明可能であると考えられた。2.方法供試虫および調査地 ヤマトシロアリのコロニー活動は岡山市北区京山地区の野外コロニーにおいて記録された。データ収集の時期は一年のうち代表的な4つの季節(冬:2009年12月- 2010年1月, 春:2010年5- 6月, 夏:2010年7- 8月,秋:2010年10-11月)に分けて行われた。各季節において3つの独立したコロニーについて3-5日間連続してシロアリ活動音が記録された。実験に使われたコロニーは十分に大きく(個体数は推定一万以上), 主にマツに営巣しているものであった。活動音の記録および解析 音響センサー(model TRC, Excel, Japan)のセンサー部(0.02 kHz, Rod sensor, Excel)はシロアリが営巣する材の地表から1m以下の部分に突き刺した。研究トピックスResearch Topics