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概要

しろありNo.163

Termi te Journal 2015.1 No.163 1報 文Reports1.はじめに シロアリ類は熱帯・亜熱帯域を中心に分布し, 世界規模では年間30-70億トンのリグノセルロース(木質主成分であるセルロース・ヘミセルロース・リグニン複合体)を分解していると推計されている1)。リグノセルロースのうちもっとも主要な成分はセルロースであるが, シロアリは消化管内に分布する微生物との共生関係を通じて, 多くの動物が利用できないセルロースを効率よく分解している。これまでの研究からシロアリは唾液腺や中腸でセルラーゼを分泌していることがわかっており, 摂食したセルロースの一部はこのセルラーゼによって分解され, 中腸壁よりグルコースとして吸収されているのではないかと考えられている2)。さらに分解されなかったセルロース片は後腸に運ばれ,共生微生物の働きによって分解される2)。その結果生じたグルコースは共生微生物によって嫌気的に代謝され, 酢酸などの形で腸内に放出される3), 4)。酢酸などの代謝物は, シロアリにとって重要なエネルギー源となっていると考えられている。 一方, セルロースは炭水化物であり, 窒素分は含まれない。木材全体を見ても窒素の含有量はせいぜい0.05 ?1.5%程度であり5), シロアリはこのような餌から何らかの手段で生存に必要な窒素化合物などを獲得する必要がある。これまでの研究から, 腸内共生微生物が窒素老廃物のリサイクルや空中窒素固定を通じて, 必須アミノ酸などの合成・供給を行っていることが示唆されている3), 4)。 このような研究の中には, 間接的な証明の積み重ねによって仮説の提唱にいたっている場合も多い。次世代シーケンサーなどを用いた包括的な遺伝子解析などは, 間接的な証拠(得られた遺伝子配列がどのような既知遺伝子に相同か)から, 様々な生命現象を仮説として導いている好例であろう。また, 例えばシロアリのセルロース消化に関しては, 唾液腺或いは中腸に存在するセルラーゼ活性やセルラーゼ遺伝子の発現の様子から中腸でのセルロース消化を予想し, 同様に後腸においても微生物によるセルロース消化の存在を予想している。しかし, 実際に生体内の特定の場所でセルロース消化が起きているのかどうか, 起きているとすればそれがどのような物質に代謝されて行くのかを継時的に追跡した例はこれまでなかった。 そこで私たちは, 理化学研究所環境代謝分析研究チームと共同で2次元NMR法によるシロアリ腸内代謝物の部位別かつ経時的な代謝物の網羅的検出を試みた6)。本稿では, 私たちの研究で明らかとなったシロアリ腸内におけるセルロース代謝系について紹介する。2.解析方法について NMRとは核磁気共鳴を意味しており, 陽子数が奇数である原子核が磁石のような性質を持つことを利用し, そこに磁場をかけることで原子核と磁場との間に起こる共鳴現象を指している。この核磁気共鳴は分子の構造や運動状態などによってわずかに変化することが知られており, この電磁波シグナルの差を化学シフト(周波数の違い)として分光的に検出することで,物質の同定などにも応用することが可能である。水素原子(1H)や炭素原子(13C)に対する化学シフトを検出する一次元NMR法が化学物質の構造解析などに広く用いられるが, 水素原子と共有結合している13Cなどとの相関を解析する異核種単一量子コヒーレンス(HSQC)と呼ばれる2次元的なNMR法を用いることで, 試料中の混合物組成を解析することも可能になる。ただし, 通常炭素原子は12Cであるため, NMR法で検出することはできないが, 一般的に自然界の炭素には1.2%程度の割合で13Cが含まれており, サンプル量が多ければ2次元NMR解析によってシグナル(1Hと13Cの相関のある部分に現れるクロスピーク)を検出することは可能である。しかし, 13Cで標識された試料を用いることができれば, その検出感度は飛躍的に向上する。 そこで私たちは13Cグルコースを含む培地で酢酸菌を培養し, 13C標識された結晶性セルロースシートを作シロアリによるセルロース代謝琉球大学熱帯生物圏研究センター 徳田 岳