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概要

しろありNo.164

Termite Journal 2015.7 No.164 9せるだろう。 遺伝子導入技術を利用したTGシロアリの作製と防除への応用は, 現時点では難しいと考えられる。TG虫による防除は, 基本的には大量のTG虫を作製して野生個体と交配させることによって効果を発揮する。しかし, 世代時間の長いシロアリで, 大量のTG繁殖個体を作製するのは容易ではないだろう。仮にTGシロアリが作製されたとしても, シロアリの生態を考えると, 防除に対する効果はあまり大きくないだろう。シロアリにおいてTG虫を使うのであれば, 野外個体の群飛が起こるときに合わせて放飼する必要があるが, 群飛の起こる場所や日時を予測するのは容易ではないだろう。また, 仮にTGシロアリによって新しいコロニーの創設を妨げることができたとしても, 既存の成熟コロニーを駆除することは難しい。TGシロアリを利用した防除を成功させるには, 他昆虫の例に習うよりも, 新たな発想でシロアリに適した手法を開発することが重要であろう。6.2 他種への応用 ヤマトシロアリで開発した防除技術は, イエシロアリなどの他種のシロアリにも利用できるものもあるだろう。例えば, ヤマトシロアリやネバダオオシロアリ,ナタールオオキノコシロアリの3種で共通する塩基配列は, イエシロアリなどの他種のシロアリでも共通している可能性は高いので, その共通領域を標的とする薬剤は, シロアリ全般に効力を発揮することが期待できる。特にイエシロアリは, ヤマトシロアリと系統的に近縁であるため, ゲノムのDNA塩基配列も類似していると考えられる。塩基配列が類似していれば, 生理学的特性も似ることが多いので, ヤマトシロアリに対して開発した技術はイエシロアリにも効果的である可能性は高い。 また我々は, 以前の研究で, 衛生・不快害虫であるワモンゴキブリ(Periplaneta americana)のmRNAを対象としたトランスクリプトーム解読を行った29)。このデータは, ワモンゴキブリだけでなく, シロアリの防除技術の開発にも役立つだろう。ゴキブリは, シロアリと系統的に近縁であり, シロアリの比較対象として適した昆虫である。ワモンゴキブリとシロアリの塩基配列の違いや共通性を明らかにすることで, シロアリに特化した薬剤開発を行うことや, ゲノム情報のないシロアリ種の塩基配列を推測することもできるだろう。 現時点では, シロアリやゴキブリの遺伝子の情報は,他の昆虫と比べて多いとは言えないが, 塩基配列の解読技術の向上に伴って, 今後は様々な種の情報が急速に蓄積されていくことが予想される。これらの情報を有効に利用するのも, 防除技術開発の効率化に結びつくだろう。7. 塩基配列データの利用 ヤマトシロアリのゲノムデータは, 現時点では公共データベースなどで公開はしていない。プロジェクトの成果が国際誌上で公表されれば, 誰でもデータを利用できるように即座にDNA Data Bank of Japan(DDBJ)で公開する予定である。ただし, 現時点でも利用可能なヤマトシロアリの塩基配列情報はある。我々は, ヤマトシロアリのmRNAを対象としたトランスクリプトーム解読を以前に行っており30), このデータはすでにDDBJのDRAデータベース(http://trace.ddbj.nig.ac.jp/DRASearch/)上で“DRA001045”という識別番号で公開されており, 誰でもダウンロードすることができる。また, 以前の研究で得たワモンゴキブリのトランスクリプトーム解読のデータ29)も, DRAデータベース上で公開されている( 識別番号:DRA001254)。ネバダオオシロアリとナタールオオキノコシロアリのゲノムデータは, それぞれウェブサイトThe Zootermopsis nevadensis Genome Project(http://termitegenome.org/?q=consortium_datasets)と(GIGA)nDB(http://gigadb.org/dataset/100057)からダウンロードできる。また, ヤマトシロアリ属のR. grassei, R. flavipes, R. lucifugusのトランスクリプトーム解読のデータ31)(DDBJ識別番号:SRA168473)も有用であろう。 これらのデータを利用するには, 現時点では多少のバイオインフォマティクス(生物情報学)の技術が必要である。今後, ヤマトシロアリやワモンゴキブリのデータをより多くの人が利用しやすくするため, 我々が解析した結果もウェブデータベースで公開していく予定である。8. おわりに シロアリのゲノム研究は始まったばかりであり, ゲノムデータを防除技術の開発に結びつけるには, 生物情報学的解析や遺伝子機能の解析を進め, 基礎的な情報を蓄積していく必要がある。特に, 効率的な防除技術開発を行うには, 防除を最終目的とした基礎研究の計画立案が必要だろう。シロアリのゲノム解析は萌芽期であり, まだ困難も多いが, 今後, 多くの方々にヤマ