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概要

しろありNo.164

Termite Journal 2015.7 No.164 19 これらの図から, 劣化要因として南ほどシロアリ被害が多く, 北になるほど木材腐朽の割合が高くなる傾向が認められる。シロアリ被害の多い建設地区分Ⅰ種地域では文化財管理者が生物劣化に対する知識を持ち, 定期的な蟻害・腐朽検査による早期発見や木材及び土壌に適切な防腐・防蟻処理などを行うことで, 劣化の拡大を防ぐ必要がある。また, 建設地区分ⅡとⅢ種地域ではシロアリにおける劣化程度Dの割合が約30%を占めることから, 建設地区分に関わらず, 地域の特性を考慮した劣化対策を行っていくことが求められる。3.5 建築年代との蟻害・腐朽について 建築年代を, 建立した年とするか, 移設, 改修した年とするかの基準が必要である。報告書や公開情報などから, おおよその建築年代が分かるものは79件あった。しかしながら, 移設や焼失・天災に伴う再建, 改修履歴に関する情報は十分に得られず, 移設地・移設年度の記録が15件, 再建・改修履歴が43件のみであった。これらも年度が分かる程度であり, 具体的な改修内容は屋根の葺き替えの情報が主であった。文化財の改修は古い柱を床束として再利用するなど, 古材の転用をしていることが多い。また, 木材食害昆虫による食害を受けた材をそのまま転用するなど, 改修前からの生物劣化があったことも否定できない。文化財自体の建築年数と床下等の部材の設置年数が一致しているとは限らず, また, 生物劣化を受けた時期が報告書から判断できないことから, 本報では建築年代と劣化の関係については検討しないものとした。3.6 建造物方位と含水率の関係 含水率が計測されていた部位は431箇所あり, そのうち劣化内容及び程度が分かるものは22件, 285箇所であった。しかしながら, 含水率を計測している部位が全劣化指摘箇所の約80%前後あった報告書はわずか5件であり, 床下部材等の含水率と劣化の程度の検討は困難であった。今後の課題として含水率測定部位は劣化内容及び程度が把握できるように記録を残すことが求められる。3.7 人的要因について 劣化要因その他に分類した部位でD のものは55箇所あった。その内, 地盤沈下によると思われる床束の浮きなど, 自然災害により文化財の耐久性を損ねるような影響が見られたのは20件であった。一方, 床下に改修時の廃材が放置されている, 床下点検口下に大量の瓦が放置されていて床下に侵入できなくなっているなどの, 人的要因により文化財の耐久性を損ねるような影響が見られたのは19件であった。 「劣化場所・床下 劣化部位・その他 劣化要因・シロアリ 問題の程度・D」に分類した21件の内, シロアリの活動が認められた10件であった。この10件中4件で, 床下の残材にシロアリの生息が確認されている。残材は過去の食害跡も2件あった。まだシロアリの被害が確認されていなくても, 改修時の床下の残材や木くずは蟻害を招く恐れがあるため, 撤去が必要といえる。改修時の床下の清掃を行い, 後始末をきちんとするという意識が建築側に求められる。 また, 耐震改修の目的で床下に鉄骨部材を設置した文化財建造物において, 鉄骨が結露している事例が2件報告されている。これらはいずれも床下の換気が不十分な構造をしており, 結露水が木材を腐朽させる原因になり得る恐れがあるため, 注意が必要である。 以下に2件の報告書の所見を引用する。 「当該建物は平成16年に移築修復された際にコンクリートのスラブ基礎が設置され, 外壁の下とデッキの外側に二重の基礎立ち上がりが存在する構造となっている。その為に床下の通気が悪く湿度が高い。 床下の大引きや根太の腐朽が進みキノコ状に成長した腐朽菌が観察された。またデッキ(濡れ縁)部の床板も腐朽が進行している。床下の通気が悪い事が原因であると考えられる。早急に床下の通気を改善する必要がある。」(M資料館報告書所見より) 「耐震補強で入れた鉄骨のベースに打設したコンクリートによって, 雨水の手水鉢跡から水のみちが遮断されて, 土壌表面が放水状態になっており, 今後付近の木材の腐朽進行が懸念される。」(Y家住宅報告書所見より) 文化財の耐震性の確保において, 外観の景観保護の観点から床下で水平剛性を高める手法が取られているが, 上記文化財の例からも, 耐震性の確保は必ずしも耐久性の確保に繋がらないことに留意しなければならない。修繕計画や耐震補強計画の際には, 木材保存の専門家の参画が望ましい。