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概要

しろありNo.164

20 Termite Journal 2015.7 No.164図16 床下の耐震補強部材による調査の障害例3.8 床下部材の補強による点検作業への障害 本研究での対象年度の報告ではないが, 平成26年9月に行われた兵庫県のHM家住宅における蟻害・腐朽検査では, 床下の耐震補強部材が点検作業の障害となっている。図16は報告書の写真の一部で, 床下点検作業の様子と健全な部位(土壁)である。この写真の撮影位置から左側の区画には, 耐震補強材によって床下から直接侵入が出来なくなっている。床下から侵入できない区画は床下点検口から侵入するしかないが,点検口が無ければ点検が出来ず, 劣化の早期発見が困難になる。また, 床下にシロアリ発生要因となる鉋くずが残されていた。所見より, 平成22年に保存修理工事が終了しており3)建物の保存状態は良好である。修理には古材が再利用されているので, 蟻害跡や甲虫類の被害跡が残っているが現在生息は確認できなかった。奥の間の床下など含水率が高い箇所がみられたので今後も床下の点検は必要であると思われる。」とある。3.9 報告書の課題 報告書の構成に関して, 以下の8点が留意点として挙げられる。1) 写真番号と図面上の番号の不一致が見られる。2)  劣化が認められなかった, 健全部が必ずしも明確になっていない。3)  床下への侵入・不侵入の記載がない報告書が見られる。4)  図面の方位, モジュールないしは縮尺が記載されていないものが見られる。5)  報告書を見る施主(住まい手, 教育委員会等)には劣化被害の程度, 状況が伝わりにくい報告書になっている。6)  含水率の測定に関して, 代表点の測定なのか劣化部材なのか不明なものがあり, 含水率の状況と劣化状況との関係が不明確になっている。7) 支部, 連携団体間の不統一感が見られる。8)  劣化の程度の表現が統一されていないため, 施主の被害度の認識, 今後の対処方法などへの情報提供不足になっている。 写真やコメントから部位に劣化があるとされていても, 例えば床束1本中の劣化範囲(全体, 脚部のみ, など)や強度が不明なものが多く, 施主の木材保存対策の検討に有益な情報となっていないと思われる。本研究では写真から推定を行っているが, 劣化の程度を知るためには含水率など他のデータが必要であると考える。 劣化の程度について, 「重要D」と表記したが, 「重要」ではなく, 「要交換」の方が施主にはわかりやすいといえる。加えて, 「健全」も問題の程度として導入すると,健全な部位が建物全体のどのくらいあるかを把握でき, 健全と劣化の両方から維持管理計画の目安として報告書を活用できるのではないかと考える。したがって,「 D要交換」,「 C要改善」,「 B経過観察」,「 A健全」の4項目での評価を提案する。3.10 数値化による劣化の評価について 劣化ポイントとその平均値を維持管理計画の参考として用いるためには, 以下の4点が留意点として挙げられる。1) 適正な重みづけの検討。2) 目視診断だけでなく精密診断の必要性がこれだけではわからないため, 劣化ポイントによる二次診断実施の基準を設けること。3) 劣化ポイントは他年度の結果と比較することで,劣化の進行がわかる。そのためには継続的な点検でデータを蓄積していくことが求められる。4) 目視診断は主観的な判断のため, 経験を積んだ者でないと劣化内容及び問題の程度の評価が難しい。 目視診断は主観的判断のため, 建築業に携わる者の中でも生物劣化に対する知識・経験がない者は適切な判断が困難である。施主は建築士が何とかしてくれると思わずに, 文化財の床下の特徴を熟知した者の意見を考慮した上で, 耐震改修の手法を検討する必要があると言えよう。