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概要

しろありNo.164

4 Termite Journal 2015.7 No.164ジャーRNA(mRNA)は核外の細胞質に運ばれ, その塩基配列に対応する形で20種類存在するアミノ酸が連結されてタンパク質が作られる。このように, ゲノム中の一部の塩基配列はタンパク質を生成するための暗号になっている(“タンパク質をコードする”と言う)。なお, 細胞あるいは組織内に存在する全ての転写産物(RNA)のセットを“トランスクリプトーム”, 全タンパク質のセットを“プロテオーム”という。 ゲノム情報からmRNAを介してタンパク質が作られるので, ゲノムの塩基配列が異なれば, 異なる塩基配列をもつmRNAが生成され, 異なるタンパク質ができることになる。そして, アミノ酸の組成が異なるタンパク質は, 異なる性質を持つこともある。異なる個体や種は異なるゲノム情報を持っているため, アミノ酸組成やタンパク質の性質にも違いがある場合がある。このようにゲノムという設計図の違いが, 種間の性質の違いとして表れる。2.2 個体間や種間のゲノムの違いとゲノムの進化 ゲノムの塩基配列は, 個体や種ごとに異なっている。この違いが生じる機構を理解しておくことは, ゲノム情報を利用した研究開発を行う上で重要である。特に, DNA塩基配列の変化をもたらす突然変異と, 自然淘汰(自然選択ともいう)や中立進化については重要である。以下, これらについて解説する。 “突然変異”とは, DNAの塩基配列に変化が生じることである。突然変異が生じる主な原因の一つはDNAの“複製ミス”である。生物のほぼすべての細胞には核があり, ゲノムを構成するDNAはその核の中に存在する(ミトコンドリアDNAなどの例外はある)。DNAは細胞分裂前に同じ塩基配列をもつコピーが作られ, 2つの細胞に分裂するときにDNAも1コピーずつ各細胞に入る。DNAがコピーされる際, ごくまれにコピーの間違いが起こることがあり, このコピーミス(複製ミス)によってDNAの塩基配列が変化する。塩基配列の変化の仕方は様々で, ある塩基が別の塩基に置き換わってしまうことや, 1塩基の挿入や欠失が起こることがある。また, 遺伝子単位で欠失してしまうミスや,1つの遺伝子が余分にもう1つ挿入されるミスも起こりうる。突然変異が生じる別の原因としては, DNAの損傷を挙げることができる。紫外線などの影響によってDNAは損傷しやすくなるが, 細胞内での代謝が正常であってもDNAの損傷は起っている。DNAの修復機構が働いて損傷が元通りに回復されなければ, DNAの塩基配列は元の配列と異なるものになる。複製ミスやDNA損傷の場合は, 塩基配列の変化は比較的小規模であることが多いが, 他の様々な機構によって大規模な変化が生じることもある。突然変異が生じる頻度はそれぞれ異なるが, いずれの場合も自然条件下では非常に低い頻度でしか起こらない。 突然変異は体細胞だけでなく, 生殖細胞においても生じる。多くの生物は生殖のために生殖細胞(精子・卵子)を作る。精子と卵子が融合して1つの細胞である受精卵ができるとき, 父親と母親の遺伝情報が1つの核の中に納まる。受精卵が分裂を繰り返して子の体が作られていくので, 子の全ての細胞は, 基本的には受精卵のDNAの塩基配列と同じものをもつことになる。仮に生殖細胞のDNAに突然変異が生じて受精卵が作られた場合, 子のすべての体細胞は変異型のDNAをもつ。一方, 突然変異が生じていない生殖細胞から受精卵が作られれば, 子は両親がもつ遺伝子配列をそのまま受け継ぐ。つまり, 生殖細胞に生じた突然変異は, 親子間や兄弟間など, 個体間のゲノムの違いを生む原因の1つである。 突然変異が生じることによって個体の性質が変化することもある。例えば, タンパク質をコードする遺伝子の一部に突然変異が生じてDNAの塩基配列が変化すると, その塩基配列から生成されるタンパク質のアミノ酸配列も変異前のものと異なることがある。アミノ酸配列が異なると, そのタンパク質の機能も変化することがある。仮にそのタンパク質が酵素であるなら,酵素活性に変化が生じ, 同じ条件でも異なる反応を示すようになる可能性もある。つまり, 変異型遺伝子を持つ個体は, 生成されたタンパク質の機能変化によって, 個体の生理学的性質も変わりうるのである。ただし, 酵素活性を発揮するために重要なアミノ酸配列に変異が生じなければ, 活性は変わらないこともある。その場合は個体の性質は変化しないことになる。 変異型遺伝子をもつ個体は, 変異していない遺伝子をもつ個体と比べて, 生存率や産子数が異なることがある。遺伝子の機能が大きく損なわれるような変異が生じた場合は, その個体は子を残せずに死んでしまうかもしれないし, 反対に突然変異による遺伝子の機能変化によってより多くの子を残せるようになるかもしれない。子をあまり残せないような変異型遺伝子を持つ個体は, その子にも変異型遺伝子を伝えることになる。そうすると, その変異型遺伝子を持つ個体は, 世代が進むごとに徐々に減っていき, やがて絶滅する。一方で, 子を多く残せる変異型遺伝子を持つ個体は, 世