しろありNo.165
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36Termite Journal 2016.1 No.165アリが群飛する6月, 7月の風向きを調べるために市内の宇品灯台のデータを参考とすることとした3)。データを見てみると6月の中旬頃から7月下旬まで南南西, 南南東など南からの風が吹いており風速も4メートル以上吹いている日が6月では26日, 7月では23日間あったことなどから海からの湿った風が市内へ吹き込むことにより, シロアリの生息域の北上を助長しているのではないかと考えられる。5.考察 今回の調査状況やデータ, 文献を照らし合わせた結果, 広島市の中心部において確実にイエシロアリは定着しているということが言える。 定着の時期については地元のメンバーによると昭和60年頃からではないかという見解もあったが, 定かではない。 定着してきた理由については, ・樹木を植栽する際に樹木の根についてきたものがそのまま埋設され, 気候や土質などがコロニーの維持に適し, 群飛を繰り返す事により生息域を拡大したこと・市街地においては街灯や建物からの光が多いため羽蟻が集まりやすいこと・川沿いや街路樹としてある樹木が食害されやすい樹種が多いこと・市内における気温や降水量が上昇傾向にあることなどが考えられる。 気象データからも, 2012年から2015年7月までを前回調査時データに加えて照らし合わせると, 明らかに前回よりは気温, 降水量とも上昇傾向にある。特に春と秋の時期については数値も高く, 広島市内においては以前と比べてもよりイエシロアリが好む気象状況になってきていると考えられる。 被害域の拡大の懸念として, 風向きの面から, 群飛時期は海から風向きの日が多く, 海からの川の上流へ川沿いに風が流れていることから, 群飛した羽アリがこの風に乗ってさらに上流域へ飛ばされ, 上流域での営巣, 定着ということも今後は十分に考えられる。 その他, 近年広島駅周辺の東区や西区の己斐, 三滝など郊外において住宅などの被害が発生していることや, 市内の高層マンションの上層階において羽蟻の飛来など, 生息域や被害を広げる要素は十分にある。 今後は市内全域において被害拡大に対し十分に注意し観察していく事が重要ではないかと思われる。6.まとめ 今回, 初の試みで広島市中心部におけるイエシロアリ生息調査を行った。実施時期が2月ということもあり活動中のシロアリを確認することは出来なかったが, 被害の確認が出来たことから, 前述の考察や我々メンバー一人一人が被害拡大においての対策などを考える必要があると痛感した。メンバーだけに限らず業界全体が消費者や行政に対してより高い信頼を得るための日々の努力が重要と改めて感じている。 より被害が拡大した際に, 市内にある文化財などへの影響や加害についても検討する必要がある。またホテルや商業施設など不特定多数が利用する建物や高層マンション等を所有するオーナーや管理者, 新しく建物を建築する場合や改装を行う際に携わる設計士や建設会社, 行政などで管理されている街路樹等の保全などに対しての注意喚起も重要である。被害が発生した際の問題点, 被害を未然に防ぐための方法や知識などをいかにして説明し理解していただくかを検討していかなければならない。防除方法や安全対策などをTCO業者に限らずPCO業者, ビルメンテナンス業者など関係業者全体で考える事が重要かつ必要である。 今回の調査をきっかけに定期的に追跡調査を行っていくと共に, 広島市内に限らずあらゆる場所での調査についても積極的に行っていきたい。それと同時に同じような状況を経験されている全国の同業者との情報交換等を通じて今後の防除対策に生かしたいと感じている。7.おわりに 今回の調査にあたり色々とご指導頂いた㈲タッケンの木本チーフや岡山環境保全センター㈱の丸山社長, 多忙にもかかわらず寒い中調査に参加協力いただいたメンバー各位に対して改めて感謝, お礼を申し上げたい。引用文献1)奥田英樹(2012):広島市中心部におけるイエシロアリ生息調査, しろあり, No.158, 16-232)気象庁ホームページ気象統計情報www.jma.go.jp/jma/menu/report.html3)海上保安庁広島海上保安部宇品灯台観測データ

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