しろありNo.166
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18Termite Journal 2016.7 No.166元 森林総合研究所 槇原 寛スギ・ヒノキ材質劣化害虫, スギノアカネトラカミキリ報文Reports1. はじめに ひと昔前はスギ・ヒノキ穿孔害虫の被害防除の動きも活発で多くのプロジェクトも存在した。しかし, その後, スギ花粉症の蔓延, カシノナガキクイムシによるナラ・カシ類などの枯損被害, さらに生物多様性重視のプロジェクトなどが続き, スギ・ヒノキ材質劣化害虫とは何ぞやという状況にまでなってきた。しかし, 海外からの原木輸入が規制され, 木材の自給も見直され, 伐期を迎えていたスギ・ヒノキも再び脚光を浴びようとしている。そこで, 筆者はスギ・ヒノキ材質劣化害虫の代表であるスギノアカネトラカミキリにしぼり, 新たな知見を加え, 被害の特徴, 分類と分布, 形態, 生態, 防除法, 被害材の利用法などを, ここに紹介する。なお, 作図に関しては, 森林総合研究所の藤間 剛博士の協力を得た。謝意を表する。2.スギノアカネトラカミキリ2.1 被害の特徴 スギノアカネトラカミキリAnaglyptus(Anaglyptus)subfasciatus Picはスギ・ヒノキの生立木の枯枝に産卵し, 枝内を食い進み, 樹幹内の死節付近に到達すると節の周りを食害する。老熟した幼虫は再び枯枝に戻り, 丸い脱出孔をあけて外界に飛び出す。この脱出孔は必ずアリ, ハチ類が利用するため, 食害痕が拡がり外界から水や雑菌が入り変色や腐朽を生じる(図1, 2)。節の周りが変色するので, 被害は飛び飛びに見られ「トビクサレ」とよばれる。そして形成層部を加害しないので, ヤニも出ないし, スギカミキリの食害のように盛り上がることもなく, 被害を外から見つけるのは困難である。そのため, 木を伐採し, 製品にする段階で被害が見つかることが多く, 材価が予定していたよりも大幅に下がる。これがこの虫の怖い所である。2.2 成虫の形態 成虫は体長6.5〜14mm。体は円筒形で雄の方が雌よりも体は細い。上翅は後方で狭まり翅端部は斜めに切断され外縁はやや尖っている。触角は赤褐色で雄は体長よりやや長く, 雌は短い(図3)。2.3 分類と分布1)世界的な分類と分布 Anaglyptusトガリバアカネトラカミキリ属の種は旧北区から温帯地域にかけて34種以上が記録されている1)。スギ・ヒノキを食害するスギノアカネトラカミキリの仲間は日本に北海道南部, 本州, 四国に分布するスギノアカネトラカミキリ(以下スギノアカネ)と屋久島, 鹿児島県(鹿児島市), 喜界島(奄美諸島)2)に生息するサツマスギノアカネトラカミキリAnaglyptus 図1 スギノアカネトラカミキリ加害模式図図3 スギノアカネトラカミキリ,♂(左)、♀(右)図2 トビクサレの変色

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