しろありNo.166
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22Termite Journal 2016.7 No.16622気温が20℃を切ると飛んでこないので, この点には注意する。網や叩き網を使って, 花を少しゆすると落ちてくることが多い。しかし, トゲヒゲトラカミキリの方が圧倒的に多いし, 他の小型のカミキリ類も多いので, カミキリ=スギノアカネと思わないことである。4) 誘引器の利用 スギノアカネの訪花性を利用して, 誘引器が開発されている。よく訪花して来る花をイメージして白色, 黄色の誘引器にベンジルアセテートやメチルフェニルアセーテトを誘引剤として使用するものである。これは市販されているが, かなり高価である。この誘引器をスギノアカネの発生時期にスギ, ヒノキ林縁部に仕掛けておく。採れたものを見て, 有無を判定する。ただし, このトラップ設置に当たってはちょっと熟練を要する。2.7 防除法1)スギノアカネの分布から見た防除の考え方分布していないか, 被害の少ない地域 スギノアカネの仲間は鹿児島県を除き九州には生息していない。そして, 本州, 四国, 北海道南部に分布している。このようにみると広い分布域を持っているようであるが, 成虫の移動力は弱く, 被害の多い地域はスギ, ヒノキ, ヒバなど食樹の自然分布域か, その周辺地域である(図6)。 東京都と千葉県は被害林分は無く, 民家からの発生だけである6)。このような県は防除の必要はない。 茨城県は最近, 八溝山の頂上部のスギ林で成虫が捕獲され, 被害も山頂付近だけでしか確認できなかった5)。八溝山の場合, 頂上部のスギ林とその下のスギ林は連続していないので, いまのところ, スギノアカネの被害が見つかってはいないが, 将来的には被害の出る可能性がある。 山梨県は静岡県に隣接した一部地域で最近, ヒノキの被害が見つかっている。しかし, 大半の林分は被害がないと思うので, 正確に被害地を把握しておく必要がある。 四国の香川県, 徳島県は成虫も採れていないし, 被害の確認もなされていない。四国の場合, 魚梁瀬(ヤナセ)スギに多い高知県東部以外は現状ではあまり防除は考えなくてもいい。 九州は鹿児島県にスギノアカネに近縁なサツマスギノアカネトラカミキリがいるが, 本土では鹿児島市周辺だけである。被害の多い東北地方でも, 岩手県の岩泉町は最も面積の広い市町村であるが, 被害は見つかっていない。どの地域も全体的に被害が出ているわけではない。被害のある地域, 無い地域を正確に把握しておき, 防除を考えるべきであろう。スギノアカネは分布しているが, 造林木への被害の少ない地域 埼玉県, 群馬県, 栃木県のようにスギノアカネは分布はしているが, 標高の高いヒバの分布地帯に生息しており, スギ人工林にまだ被害の出ていない地域ではスギ人工林の近くにヒバ材の集積場を作らないようすることである。また, ヒバ材が大量に集積されている土場の周辺のスギ, ヒノキ林にはすでに侵入している可能性があるので, 調査の必要がある。被害は出ているが非常に局所的である地域 被害の分布域を特定し, 無被害地域に被害材が大量に持ち込まれることのないようにすることや, 被害地に隣接して新たな造林地を作らないようにする。被害がかなり広域に広がっている地域 将来の優良材生産を目指すような努力が必要となる。まず, 第一は適地適木である。どんなにスギノアカネがいようとも, 非常に生育の良いスギであれば, 枝と枝との間隔が広く, トビクサレの密度も低くなる。実際, 秋田の著名なスギ林地帯では虫はいるが, 被害がほとんど見られない地域もあった。 第二は枝打ちである。難しいが一番玉がとれる高さまで上手に打つ。木に被害が出始めるのは, 暖地では15年生, 寒冷地では20〜25年生くらいからである。防除を考えねばならないのは, これから10年ないし15年くらいである。この時期にしっかりと枝打ちを行えば, 被害は軽減できる。特に葉の一部が変色しだしたような枝は産卵されやすいので, しっかり落とす。2)防虫帯の設置 スギノアカネの分布が食樹の天然分布と関係が深いことは前述したとおりである。しかも, 林分外への飛び出し距離は最高50mである。また, 被害の拡大速度と障壁の例として青森県碇ヶ関村のスギ林分が散在地域での調査例がある。ここでの拡大速度は1年間に数十mだと示唆されたほか, 東北自動車道が障壁となり, 被害の拡大が止まった林分のあることが明らかにされた19, 20)。碇ヶ関では林分間での移動は時間をかければ250m以上になるとの結果が出ている。そのため, 高速道路のような障壁が無い場合, 250mの倍の500mの防虫帯が必要と思われる。防虫帯は空間のみならず。広葉樹林でもよい。

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