しろありNo.166
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23Termite Journal 2016.7 No.166233)誘引剤の利用 スギノアカネの訪花性を利用して, よく集まる花の色である白, 黄色を模した吊り下げ式誘引器が開発された。さらに花の匂い物質としてベンジルアセテート, メチルフェニルアセテートが効果的であることが明らかにされた22, 23)。これらを組み合わせた誘引器が開発された。そして, 対象昆虫以外も大量に捕獲される白とベンジルアセテートの組み合わせは自然環境への配慮から外され, 黄色の誘引器とメチルフェニルアセテートを誘引剤(アカネコールとして市販)する形となった。山形ではこの誘引器を使用して, スギノアカネの大量捕獲に成功している24)。 ところで, 白とベンジルアセテートの組み合わせの誘引器は虫が多く採れることで, 現在では生物相の調査で使われることが多くなった。 スギノアカネは前述のように正の走行性が非常に強く, 林分外への飛び出しは少ないが林分内であれば, より明るい方向に飛んでいく。そこで, 具体的にどのようなことができるか考えてみよう。激害地において被害がこれから始まるという林分, 15〜20年生, にこの誘引器を設置する。設置場所は林分内に入って, 周りを眺め, より明るく見える場所の林縁部で枯枝のついている部位より高い位置に設置する。太陽の動きで明るい場所は変化するので, 設置場所は複数にする。この場合, この虫がよく訪花する植物は排除しておく。例えば, コゴメウツギ, ガマズミ, サンショウであるが, 根こそぎにして枯れると困るのであれば, 花の部分だけをつぼみのうちに切ってしまうことである。この方法は時間をかけて, 虫密度を落とし, 将来的に被害を軽減させるものである。3. 被害材の上手な利用法と考え方 トビクサレは枝落ちがよく, 成長の良い木であれば, 材の中に深く残るだけである。その場合, 角材をとることもできるし, 外観からも被害の有無は分からない。また, 腐朽が入っていなくて変色だけであれば, 脱色もできる。4. 残された問題点 人材不足と作業従事者の高齢化に伴って, 防除に関して大きな問題点が2つある。1つは枝打ちができる人の減少で枝打ちが出来ないこと。もう1つはスギノアカネ幼虫の入っている可能性のある除間伐が林内に放置されることである。 除間伐林ですでに産卵されている材を林内に放置しておくと, 岩手県では伐倒後17年した材から成虫が羽化した例もあり, 間伐材の林内放置は被害拡大につながる。5. おわりに スギノアカネのように, 幼虫の生育も一定しないくて, 1世代に何年かかるか分からない虫に関しては一般的な害虫防除の概念は通用しない。トビクサレ材の大半は変色を気にしなければ, 利用上特に問題ないはずである。実際, 製材業者は被害材を上手に使っている。また, 一般の人にこれは被害といえないという観念を定着させる努力も必要である。引用文献1)大林延夫・新里達也編 (2007): 日本産カミキリムシ. 東海大出版会, 神奈川, 818pp.2)槇原 寛・前田芳之・臼井陽介 (2007): 奄美諸島喜界島のスギ材より羽化したサツマスギノアカネトラカミキリ. 森林防疫, 56(1), 12-13.3)槇原 寛 (2014): 中国北東部のAnaglyptus subfasciatusとされている種について. 森林防疫, 63(3), 19-20.4)公文保幸(2009): 茨城県におけるスギノアカネトラカミキリの記録. るりぼし, (38), 71.5)槇原 寛・北島 博 (2010): 茨城県におけるスギノアカネトラカミキリの記録. 森林防疫, 59(3), 110.6)槇原 寛 (2007): 家屋や人工構造物より発生または被害を与える甲虫類. しろあり, No.152, 14-27.7)槇原 寛 (1987): スギノアカネトラカミキリの被害と防除. わかりやすい林業研究解説シリーズ (84), 森林科学技術振興所, 東京, 65 pp.8)Wang. Z (2003): Monography of original colored longicorn beetles of China’s Northwest. Jilin Science and Technology Publishing House, 419 pp.9)Makihara. H and M. Hayashi (1984): A study on three species of Cryptomeria twig borers, Anaglyptus subfasciatus species group (Col., Cerambycidae) in Japan and Taiwan with description of a new species. Elytra, 11(1/2), 1-8.10)槙原 寛 (1991) スギノアカネトラカミキリのスギ生立木樹幹への産卵例. 森林防疫, 40(12), 20-21.

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