しろありNo.166
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25Termite Journal 2016.7 No.166京都大学生存圏研究所 吉村 剛, 藤本いずみPRTRG11 Conference (第11回環太平洋シロアリ学会大会)における研究発表情報Information1. はじめに 環太平洋シロアリ学会(Pacific-Rim Termite Research Group, PRTRG)は, 京都大学木質科学研究所(当時)の(故)角田邦夫博士, オーストラリアCSIROのMichael Lenz博士(当時), 同Jim Creeld氏(当時)の3氏が中心となって2004年に設立した研究グループを母体としている。設立の経緯についてはしろあり誌No.138に詳しく述べられているので省略するが, 環太平洋地域におけるシロアリ研究者間の情報の交換と共同研究の推進, 並びに学生を含む若手研究者への国際的な発表の場の提供を大きな目的としている。2014年にシンガポールにおいて正式に学会登録を行い, 現在は130名ほどの会員が登録している。会員登録はウェブサイトを通して行うことが可能であり, 100USドルを一度支払うことによって一生会員資格が与えられるシステムとなっている。会員は, 現在2年に1回開催することになっている大会に通常の参加費より100USドル安く参加できることになっており, 会員は1度大会に参加すれば, “もとがとれる”ことになる。なお, 次回の大会は, 2018年にインドネシアの古都ジョグジャカルタで開催される予定である。世界遺産であるボロブドール寺院やプランバナン遺跡を訪問するエクスカーションも計画されているようである。日本の皆様の積極的な会員登録と参加を期待したい。 環太平洋地域には, イエシロアリ属, ヤマトシロアリ属, ダイコクシロアリ属などの経済的に重要なシロアリグループが共通して分布している。これらのシロアリに関する基礎的な知見と新しい防除技術の開発研究は, 日本の関係者にも参考になる点が多いと考えられる。 本報告では, 本年4月18, 19日両日に中国雲南省の省都昆明で開催された第11回大会(PRTRG11)における研究発表の要旨を筆者の責任において訳出したものを掲載する。なお, 基本的には学会時に配布されたプロシーディングの英文要旨をそのまま訳出しているが, 一部のものについては, 紙幅の都合等により一部改変・削除した部分を含むことを予めお断りしておく。プロシーディングの全文については, PRTRGのウェブサイトにアップロードされているので, そちらを参考にされたい。また, これまでの大会におけるプロシーディングもウェブサイトで閲覧できるようになっている。2. Kunio Tsunoda Memorial Lectures角田邦夫記念講演 PRTRGの設立に多大な貢献をされた(故)角田邦夫博士の功績を讃え, 氏の名前を冠したセッションとして3件の基調講演が行われた。なお, 北出 理氏の基調講演については, ご好意によりプロシーディングの翻訳をしていただいたので, 本稿の後に全文を掲載する。・シロアリ共生原生生物群集の多様性と進化  −ヤマトシロアリ属を中心に (Diversity and evolution of symbiotic protist communites in termites especially focused on genus Reticulitermes)北出 理氏(茨城大学理学部)  シロアリと食材性のキゴキブリの共生原生生物群集は, 構成種の組成の強い宿主種特異性によって特徴づけられる。共生原生生物の属組成の類似性に基づくシロアリ類全体を対象としたクラスター分析から, 宿主との共種分化が原生生物組成の主たる決定要因であることが明らかになった。同様に, 日本のヤマトシロアリ属宿主においては, 原生生物群集の類似性パターンは共種分化と地史的イベントを反映している。また, 宿主種の交雑によって生じる原生生物群集の混合は, 親宿主種のもつ原生生物種の非対称な継承を引き起こす。異種宿主間の交雑や共食いを含む攻撃と, それらがもたらす群集の混合は, 原生生物群集の進化に影響を与えてきたと考えられる。

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