しろありNo.166
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32Termite Journal 2016.7 No.166324. ポスター発表・ヤマトシロアリの有性生殖・単為生殖初期コロニーの間の相互作用 (Interaction between sexual and parthenogenetic incipient colonies of Reticulitermes speratus)Osamu Kitade (Ibaraki University, Japan) ヤマトシロアリは, 実験室ではメス2個体でコロニーを創設し, 単為生殖で繁殖することが可能である。ところが我々が日本列島で計149の野外成熟コロニーを採集して調べたところ, 単為生殖だけで繁殖していると考えられる, メスだけを含むコロニーは一つもなかった。単為生殖する野外コロニーがもし存在したとしても, 通常の有性生殖コロニーよりその繁殖成功はずっと低いはずである。野外初期コロニーに見られる強い集中分布は, 初期コロニーの間の強い競争を引き起こすことが予測されるが, 単為生殖コロニーはそれに敗れている可能性が高い。本研究では, ヤマトシロアリの有翅虫を用いて400の有性生殖(♂♀)コロニーと242の単為生殖(♀♀)コロニーを作成し, 創設300日後にコロニーの構成を調査した。次に有性生殖コロニーと単為生殖コロニーの20組を実験装置に隣接して移植・営巣させ, 90日間両者の相互作用を観察した。単為生殖コロニーの生存率(18.1%)とコロニーサイズ(18.9±6.9)は, 有性生殖コロニー(42.8%および42.2±18.4)に比べて有意に低かった。ニンフとニンフ型幼形生殖虫は単為生殖コロニーでのみ分化し, これはカスト決定遺伝モデルの予測に合致する。相互作用期間中に, 8つのコロニーの組が融合した。融合したコロニーのうち6つでは単為生殖コロニー由来の生殖虫が2個体とも殺された。融合しなかった12のコロニーの組のうち, 7組では単為生殖コロニーが死滅し, また9組では一部の子個体のコロニー間の移動が起こった。相互作用期間を通して, 有性生殖コロニー由来の生殖虫の生存率は95.0%, 単為生殖コロニー由来の生殖虫の生存率は27.5%であった。 本実験の結果から, 相互作用環境下において, 単為生殖コロニーは有性生殖コロニーと比較して際だって競争に弱いことが示された。一方で, 高頻度で起こるコロニー融合と子個体の移動は, 女王の存在下でも生殖虫に分化する傾向をもつ「ニンフ遺伝子型」個体が隣接するコロニーへ侵入する機会を与えると考えられる。・シペルメトリンとペルメトリンを短時間浸漬したケンパスとゴムノキのマレーシアのハザードクラスH2での低湿度及び高湿度条件下におけるCoptotermes curvignathusに対する効果 (Comparative efficacy of kempas and rubberwood dip-treated in proprietary insecticides cypermethrin and permethrin between short dipping durations under low or high humidity Malaysian H2 hazard class conditions against Coptotermes curvignathus.)Carlson A.D. Tawi (Universiti Malaysia Sarawak, Malaysia) 公的に使用可能な水溶性の有機殺虫剤には, 一般には特定の農業害虫やシロアリを対象害虫とする作物保護の為の散布希釈剤が含まれる。シペルメトリンとペルメトリン製剤を規定濃度で浸漬処理した木材のCoptotermes curvignathusに対する効果を調べた。ケンパスの心材とゴムノキの辺材の試験片を規定濃度(シペルメトリン:0.0055%;ペルメトリン:0.0053%)の範囲内で浸漬時間(3秒と60秒)を変えて処理し, ハザードクラスH2(非接地, 非暴露条件)での低湿度(LH)と高湿度(HH)条件にて比較した。結果として, 60秒浸漬は3秒浸漬より殺虫剤含有量が多かったが, ゴムノキ処理においてのみ有意差が認められた(P<0.05)。ハザードクラスH2条件では, 無処理ケンパス(HH:質量減少率39.0%, AWPAスコアで5.5;LH:質量減少率48.2%, AWPAスコアで5.7)と比較し, 無処理ゴムノキ辺材の食害は甚大であった(HH:質量減少率93.9%, AWPAスコアで1.2;LH:質量減少率91.7%, AWPAスコアで0)。さらに, 浸漬時間に関わらず処理薬剤が規定濃度あるいは低濃度では, ハザードクラスH2条件であってもゴムノキに対する効果は低下した(質量減少率>70%, AWPAスコアで≤3.8)。ケンパスと比較し, これらの薬剤が, ハザードクラスH2でのHHとLHの違いや浸漬時間には一定の傾向がなく[シペルメトリン:平均8.7(0.0055%/3秒浸漬@LH, 0.00275%/3秒浸漬@HH), ペルメトリン:平均9.1(0.001325%/60秒浸漬@LH)], AWPA基準で充分な効果を示すには規定濃度では十分でなかった。結論として, 処理ゴムノキは処理ケンパスより抗蟻性が低かった。効果を発揮しうる濃度でシペルメトリンとペルメトリンを処理したケンパスは十分な効果を発揮したものの完全ではなく, このことはハザードクラスH2で両材を保護するには作物に散布処理する場合より高い濃度が必要であった。

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