しろありNo.166
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44Termite Journal 2016.7 No.166(研)森林総合研究所木材改質研究領域木材保存研究室 神原 広平侵入害虫カンモンシロアリの食害量に関する一考察研究トピックスResearch Topics1.はじめに カンモンシロアリ(Reticulitermes kanmonensis)は, 今からおよそ100年前の明治44年にキアシシロアリ(R. aviceps)と思われるシロアリとして山口県から初めて記載されたヤマトシロアリ属(Reticulitermes)のシロアリである1)。その後, 山口県の下関付近で同所的に生息する同属のヤマトシロアリ(R. speratus)の群飛時期と季節的なずれがあることや, キアシシロアリと確定するに至らなかったこともあり, ヤマトシロアリと区別すべき変種として“カンモンシロアリ”と呼ばれるようになった2,3)。平成11年に両種を分類する形態学的特徴が明らかとなり新種記載されたことで4), 本種が関門海峡を境とした本州と九州の両沿岸域での局所的な分布であることが明らかとなった5)。現在では, 共生原生動物相6), 体表炭化水素組成7)および分子系統の比較研究8)から, カンモンシロアリは伝統的な国際港を有する関門地域への人為的な移入による中国南部からの侵入種と考えられている。カンモンシロアリは, イエシロアリ(Coptotermes formosanus)やヤマトシロアリと同じミゾガシラシロアリ科(Rhinotermitidae)の地下シロアリであり, 両種同様に深刻な被害を及ぼす家屋害虫として分布を拡大する可能性が示唆されるが, 摂食特性に関する知見は少ない。本稿では, 温度と職蟻数を変化させた場合のヤマトシロアリ, イエシロアリ, カンモンシロアリのろ紙消費量の相互比較研究9)から得られた, カンモンシロアリの摂食特性を紹介する。2.試料と方法 シロアリの食害量は, 例えば生息環境中の温度や湿度, コロニーの構成員数や構成割合などの条件, 食害対象物の性質(樹種や含水率など)により大きく異なる。このような食害量に影響を与える要因のうち, 本研究では温度と職蟻数の2つの因子について次の組み合わせで試験し, カンモンシロアリ(Reticulitermes kanmonensis), ヤマトシロアリ(R. speratus), イエシロアリ(Coptotermes formosanus)の3種を用い比較を行った。まず温度については, 温度条件を15, 20, 25, 30, 35℃の5段階に設定し, 職蟻数は200頭一定とした。次に職蟻数については, 温度は25℃一定とし, 職蟻数の条件を50, 100, 200, 300, 400, 500頭の6段階に設定した。 全ての試験は, スチロール製円筒形容器(直径113mm,高さ54.5mm)の底面にバーミキュライトを敷き, その上に湿らせたろ紙を1枚置き, 蓋をした密閉状態の容器で行った。ただし, 職蟻数300〜500頭を投入した場合はろ紙2枚を供した。各シロアリによる摂食期間は10日とし, ろ紙消費量は試験前後でのろ紙の質量減少量とした。3.結果と考察 温度を変化させた場合のシロアリ3種のろ紙消費量は(図1), カンモンシロアリとヤマトシロアリでは, 図1 異なる温度条件下におけるシロアリ3種のろ紙消費量   *印は各温度条件でイエシロアリが有意に多いろ紙消費量であったことを示す(p<0.01)

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