しろありNo.166
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45Termite Journal 2016.7 No.16645温度の上昇に伴い徐々に増加し30℃で最大となり35℃で減少した。一方, イエシロアリのろ紙消費量は, 温度の上昇に伴い著しい増加を示し35℃で最大となった。イエシロアリのろ紙消費量は, 20℃以上の温度条件全てでカンモンシロアリおよびヤマトシロアリより有意に多かったが, 15℃では他2種とほとんど差がみられなかった。シロアリは熱帯・亜熱帯地域を中心に分布する昆虫で, 低温環境下においても休眠することなく, 活動量は気温の低下とともに減少する10)。イエシロアリやヤマトシロアリの分布範囲は生息地の冬期平均気温といった気象条件により制限を受けることが知られており11), 両種の低温条件下でのろ紙消費量の差異も活動地域を制限する要因と考えられる。カンモンシロアリの温度適応性はヤマトシロアリと同様であると考えられるが, 現在の分布域は関門海峡を境とした本州と九州の両沿岸域に限られている5)。カンモンシロアリの存在が示唆されてから約100年が経過するが, 現在の分布範囲が本種の分散能力において適当であるか, もしくは分布拡大を制限する何らかの生理・生態学的要因が存在するかについては今のところ不明である。 職蟻数を変化させた場合のシロアリ3種のろ紙消費量をみると(図2), 全てのシロアリ種で職蟻数の増加に比例して増加するが, カンモンシロアリとヤマトシロアリは同程度の増加傾向であるのに対し, イエシロ図2 異なる職蟻数条件下におけるシロアリ3種のろ紙消費量   *印は各職蟻数条件でイエシロアリが有意に多いろ紙消費量であったことを示す(p<0.01)。異なる英文字は各種内の職蟻数間で有意差が認められたものを示す(p<0.05)アリは全ての職蟻数条件で他2種より有意に多く, 増加割合も大きく50頭と500頭ではろ紙消費量が約6倍差にも及んだ。シロアリの被害は巣の規模(巣の構成員数でみたコロニーサイズ)に応じて増加するが, その数は一般にヤマトシロアリで数万頭〜数十万頭, イエシロアリで数万頭〜数百万頭と云われている。カンモンシロアリのコロニーサイズは明らかになっていないが, ヤマトシロアリより大きいと仮定しても食害量の観点ではイエシロアリほど甚大な被害に及ぶことはないと推察される。4.おわりに カンモンシロアリの家屋おける被害規模は, ヤマトシロアリと同程度になることが予想される。しかし, カンモンシロアリは建物上層部での被害や軒桁から伸びる蟻道などからノキシロアリとも呼ばれ12), ヤマトシロアリとの生態学的差異が指摘された後に形態学的分類へと発展した経緯がある。さらに, カンモンシロアリは, ヤマトシロアリと狭い範囲で同所的に生息する環境では, 腐朽等の被害が少ない健全に近い倒木に生息することでヤマトシロアリと住み分けを行うことが示唆されており13), 本種の害虫としての危険度に関しては, 今後, 好適湿度環境や樹種選好性などの検討も重ね注意深く判断する必要がある。引用文献1)名和梅吉(1911):黄肢白蟻に就いて, 昆虫世界, 15, 18-19.2)伊藤修四郎(1984):関門白蟻[1], しろあり, 57, 3-10.3)伊藤修四郎(1984):関門白蟻[2], しろあり, 58, 2-8.4)Takematsu, Y. (1999): The genus Reticulitermes (Isoptera: Rhinotermitidae) in Japan, with description of a new species, Entomol. Sci., 2, 231-243.5) Kitade, O., Y. Hayashi (2002): Localized distribution of an alien termite Reticulitermes kanmonensis (Isoptera: Rhinotermitidae), Entomol. Sci., 5, 197-201.6)Kitade, O., T. Matsumoto (1993): Symbiotic protistan faunae of Reticulitermes (Isoptera: Rhinotermitidae) in the Japan Archipelago, Sociobiol., 23, 135-153.

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