しろありNo.166
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2Termite Journal 2016.7 No.1662で, 耐震性能が増している。現在必要とされている壁の耐力の量とも同じである。2000年以降とは新耐震と必要な壁量は同じであるが, 金物の利用やその止め付け方が厳格に規定され, また耐力壁の配置についてもよりルール化されたものであり, 現在までの地震6,7)ではあまり大きな被害を受けることはなかった。以下に, 調査範囲内での全体的な被害の評価について示す。 これまでの筆者らが報告した地震被害6,7)と同様に, 旧耐震時に建てられた建築年代が古く, 比較的屋根が重い建物の被害が大きくなっているようにみられた。特に, 壁が少なく大きな屋根を支えているもの, 南側など開口が大きくなっているものなどが, 大きな被害を受けている傾向がみられ, 調査したそれぞれの地区でも同様の傾向を示した。これらの建物が大きな被害を受けやすい理由は, 先に述べた必要とされた性能が低かったことに加えて, 本地震の特徴であるキラーパルスの成分が大きかったことが挙げられ, これらについては, 文献7)に記載しているので確認されたい。また, 新耐震の建物でも, 被害を受けているものもみられ, 耐力壁の配置や耐力壁の脚部の留め付けなどが重要であることが改めて確認された。ただし, 1980年代の新耐震以降に建築された建物も, すでに30年という年数が経っており, これらの住宅においても劣化等の被害がみられ, この被害については今後検討していくことが必要であることが確認された。加えて, 本地震ではこれまでの地震被害報告6,7)において被害のみられなかった2000年以降の木造住宅において, いくつかの建物で大きな被害がみられた。このことより, 耐震性能の担保に関する検討が必要であるということが挙げられる。3.生物劣化の概況 はじめに, 本報告のテーマであるシロアリおよび木材腐朽菌などによる生物劣化が起きた場合に, 建物の性能にどのような被害を与えるかについて少し述べておきたい。建物の設計においては, 建物の規模に合わせて必要となる最低限の柱や梁など構造材料の性能, および壁などの水平抵抗要素の性能が決まってくる。これに見合った木材や木質材料を配することによって, 建物の性能を担保している。そのため, どれくらい余裕のある建物を建設したかにもよるが, 一般的に生物劣化が生じていたとしても, そのまま突然倒れるようなことはほとんど無く, 普段は扉が閉まりにくい, 床がきしむなどの不具合程度となる。しかし, 特に重要となる接合部などにこのような被害が出ると, 地震によって, 柱と土台を接合しているほぞが機能せず柱が土台から抜け落ちる, 耐力を必要とする壁を止めている柱の耐力が残っていないために機能しないなど, 本来建物の持つべき性能を発揮できなくなるという事態に陥る。このような事態になると建物自身がまっすぐ立っている間は問題ないが, 地震や風などの外力によって少しでも傾いていくと元の状態に戻らなくなり, ひどいときには倒壊に至る。このシロアリ被害を受けた柱・土台の接合に関する研究について本号の研究トピックスに実験の報告をしているので, 良ければ, 目を通してもらいたい。接合している部分において重要な箇所に被害が集中すると大きく性能を低下させることがわかっている。本地震においても, 生物劣化, 特にシロアリの被害を受けて, 外壁が外れているものや土台が機能しなかったために柱が外れ, 家が傾く被害図2 加速度応答スペクトル(左:前震, 右:本震)

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