しろありNo.167
12/73

8Termite Journal 2017.1 No.1678図5 No.1に対する雌雄の生殖虫からの栄養交換頻度(左), No.1による雌雄の生殖虫へのグルーミング頻度(中央), No.1の歩行活動量(右)(1日40分間, 5日分の総計)(Yaguchi et al. 2016を元に作図)。カッコ内の数字は, 各処理における行動解析を行った巣の数を示す。白のボックスは前兵隊分化, グレーのボックスは4齢脱皮が観察されたことを示す。ボックス内の直線は中央値を表す。各ボックス上の異なるアルファベットは有意差があることを示す(one-way ANOVA followed by Tukey’s test, p < 0.05)。分散分析の結果, グルーミング頻度と歩行活動量には有意差が見られなかった(それぞれp = 0.365, 0.278)。栄養交換頻度 グルーミング頻度 歩行活動量 5日間の合計頻度 5日間の合計頻度 5日間の合計頻度 (4)(8)(7) (4) (8) (7) (4)(8)(7) DDW ドーパミン受容体 アンタゴニストDDW ドーパミン受容体 アンタゴニストDDW ドーパミン受容体 アンタゴニストa ab b 前兵隊分化 4齢脱皮 とシロアリで部分的に共通する可能性を示している。それを明らかにするためにも, 本実験で示された脳内ドーパミンとJHの関係性は, 他種のシロアリのみならず大職蟻をもつアリでも調べる必要がある。各種で得られる結果を比較することで, 個体間コミュニケーションによる高い栄養状態を介した, カースト分化の共通機構が理解できるかもしれない。8. 今後の展望 社会性昆虫が見せる複雑な行動や生態を, 分子生物学的な情報を基に解き明かすことを目指し, ゲノム科学と社会生物学を融合させた新学問領域「ソシオゲノミクス」が提唱されている49)。社会性昆虫が持つゲノム(=ソシオゲノム)には, 環境依存的にカーストを出現させるしくみが織り込まれており, 複雑で高度に洗練された社会の形成を可能にしている。これまで, ソシオゲノミクス研究は膜翅目を中心に進められてきたが, 数種のゲノムが解読されたことにより, ようやくシロアリでも遂行できる体制が整ったと言える。ゲノム科学は正に日進月歩であり, NGSを用いた網羅的発現遺伝子(トランスクリプトーム)解析(RNA-sequence)も, 様々な生物で容易に行われることができるようになっている。筆者らも, No.1とNo.2のトランスクリプトームを比較することで, 兵隊への分化を決定する分子機構を担う重要遺伝子のスクリーニングを行っているところである。社会性膜翅目では, 繁殖分業や社会行動を制御する分子機構は, 単独性昆虫がもつ発生や神経生理の分子基盤(グラウンドプラン)を使い回している(コオプション)のではないかとの仮説が提唱されている50)。シロアリでのソシオゲノミクス研究から導かれる重要遺伝子が, コオプションの結果生じた新奇機能を有する「カースト分化決定遺伝子」であれば興味深い。今後, シロアリを対象にしたソシオゲノミクス研究がさらに進展し, カースト分化の分子基盤を総合的に理解できる日が来ることは間違いないだろう。謝辞 本稿で紹介した研究の一部は, 科研費(No. 24570022, 25128705)の支援を受けて行いました。生体アミンの測定では, 佐々木謙先生(玉川大学)に多大なるご支援とご協力を頂きました。また, 富山大学理学部生物学科前川研究室の皆様には, 採集や実験のご協力を頂きました。最後に, 本稿を執筆する機会を与えて下さった吉村剛先生(京都大学)に感謝申し上げます。

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る